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日本の美・発見VI 長谷川等伯と狩野派 【出光美術館】

先週の日曜日に、有楽町の出光美術館へ行って「日本の美・発見VI 長谷川等伯と狩野派」を観てきました。

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【展覧名】
 日本の美・発見VI 長谷川等伯と狩野派

【公式サイト】
 http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html

【会場】出光美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR・東京メトロ 有楽町駅/都営地下鉄・東京メトロ 日比谷駅


【会期】2011年10月29日(土)~12月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
かなり混んでいて、場所によっては列ができるほどでしたが、大きめの作品が多いので問題なく自分のペースで周ることができました。

さて、今回の展示は長谷川等伯と狩野派ということで、ライバル関係にあった2派の関係を取り上げる内容となっていますが、どちらかというと長谷川等伯と長谷川派の方に重きがあるようでした。昨年は没後400年で東博でも大きな展覧がありましたが、出光美術館でも長谷川等伯の展示はたびたび開催されています。

等伯の生涯については以前詳しくご紹介したので今回は割愛しますが、七尾から京都に移住したのは1571年(33歳)の頃というのが有力な説らしく、その頃は既に狩野派が織田信長や豊臣秀吉ら権力者の支持を得ていました。狩野派は始祖の正信、2代の元信、永徳らの活躍によって画壇に君臨していたのですが、新興勢力の長谷川派を警戒していたようです。この展覧会ではお互いにライバル心を燃やしながらも影響しあった様子も分かるようになっていましたので、詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。
 参考記事:
  没後400年 特別展「長谷川等伯」 感想前編(東京国立博物館 平成館)
  没後400年 特別展「長谷川等伯」 感想後編(東京国立博物館 平成館)


<I. 狩野派全盛>
まずは狩野派のコーナーです。狩野派の始祖 正信(1434?~1530年)以来、御用絵師として隆盛し、正統として盤石な組織力を築きました。正信の息子の2代目の元信(1477?~1559年)の明快で端正な画風は次世代に継承され様式美の基礎となったようです。

伝 狩野松栄 「花鳥図屏風」 ★こちらで観られます
狩野松栄は2代目 元信の3男で永徳の父です。これは松栄の作と伝えられる4曲1隻の墨絵で、松の下で鶴が大きく口を開けて立っている様子が描かれています。周りには小さな鳥たちや百合なども描かれていて、解説によると元信をよく継承しているそうで、描線や筆致が柔和だと評されていました。墨の濃淡で軽やかな雰囲気がある作品でした。

この辺には永徳の末弟の狩野長信による「桜・桃・海棠図屏風」や狩野松栄・秀頼 他による「扇面貼交屏風」などもありました。まあ、狩野派は若干地味な内容だったかな。
なお。元信以来、扇は狩野派の貴重な収入源であったそうで、元信は相続権の無い人間が勝手に扇を作らないように幕府に嘆願書を出したほどだったそうです。しかし、光信(永徳の息子)以降はあまり力を入れなくなったようで、後にそれに代わって俵屋宗達がこの分野に進出していきます。


<II.等伯の芸術>
続いては長谷川等伯のコーナーです。統制や伝統を重んじる狩野派に比べて等伯は自由な立場であり、興味に従って描いていたそうです。中でも中国の牧谿の水墨画から影響を受けている様子が紹介されていました。

長谷川等伯 「竹虎図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の屏風で、今回のポスターになっている作品です。墨の濃淡で竹林の中の虎を1隻に1頭ずつ描いています。右隻は身を屈めて上方を伺い、跳びかかりそうな雰囲気です。太い輪郭の力強さとふわっとした毛の繊細さの両面があるように観え、目線の先は風が吹いているような感じでした。左隻の虎は猫が耳かきしているようなポーズをしていて、右隻の緊張感と対比的に脱力系なのが面白かったです。解説によると、これは大徳寺の牧谿(もっけい)の虎図に学んだものだそうです。狩野派も牧谿に学んだ虎図があるらしいですが、それをさらに等伯が観ていたと考えられるようです。また、左隻の左下には何故か狩野探幽の名前があるのですが、これは「この絵は周文の真筆で、両片(左隻の1扇、5扇、6扇)が破損していたので直した」との旨が書かれているそうです。よく観ると周文とか真筆という文字もありました。探幽は祖父の永徳のライバルであった等伯のことはよく知っていたはずなのに、周文の作とした点については不明ですが、ライバルを歴史から葬り去るためにやったのではないかとの説も紹介されていました。

この近くには「対屋事件」という狩野派と等伯の関係が端的に分かる事件も説明されています。これは公家の勧修寺晴豊の日記に書かれたもので、1590年に晴豊の家に狩野永徳が息子たちを連れてきて、御所対屋(夫人や女房が住む建物)の壁画を「はせ川と申す者」に注文したのは迷惑なので断ってくれと頼んだそうです。実際にこの後に圧力で等伯の壁画は取りやめになっているようで、当時の長谷川派と仲が良くなかったことやそこまで台頭してきた様子が分かる事件のようでした。

能阿弥 「四季花鳥図屏風」
室町時代の能阿弥の作で、牧谿に学んだ画風をしています。川辺で様々な鳥たちが飛んだり休んだりしている様子が書かれています。特に飛んでいる鳥たちは躍動感があり、楽しげな雰囲気がありました。等伯は能阿弥にも深い関心があったそうです。

牧谿 「平沙落雁図」
等伯に影響を与えた牧谿の掛け軸で、霞んだ空と遠くに見える山の頂を描いています。その手前を雁たちが列を組んでいて、右の方には芦の中で休んでいるのも数羽いました。非常に空気感の表現が巧みで、ぼや~っとした感じが叙情的でした。
等伯もこの光や大気の表現を学んでいるそうですが、牧谿は中国ではあまり評価されていなかったようで、当時の中国は「骨法用筆」という輪郭をよく捉えることを重視していたので異端扱いだったようです。

長谷川等伯 「竹鶴図屏風」
6曲1双の屏風で、右隻は竹林の脇で丸まって卵を温めているような鶴、左隻は上を向いてクチバシを開けている鶴が描かれています。墨で濃く描かれた竹と薄く描かれた竹があり、竹林にもやが漂うような表現が見事でした。静かな雰囲気です。 なお、左隻の鶴は牧谿の描いた鶴を忠実に写したものだそうです。

長谷川等伯 「松に鴉・柳に白鷺図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の屏風で、右隻に松の大木にあるカラスの巣が描かれ、母らしきカラスが子カラスたちと一緒に巣の中にいます。その視線の先にはもう一羽のカラスもいて、カラスの一家のようでした。解説によると、普通は黒い鳥を書く時は中国の叭々鳥(ははちょう)を描くのですが、等伯はあえて身近なカラスを描いたようです。 また、巣の下にはたんぽぽも描かれているので春の様子であることがわかります。
左隻は空を飛ぶ白鷺と、枯れ木にとまる白鷺が描かれていました。余白の多い空間の表現が絶妙で、しんみりしたものを感じました。こちらは秋冬の様子のようで、画面の中で季節の流れもあるようでした。

この隣には狩野探幽の「叭々鳥・小禽図屏風」も展示されていましたこちらも牧谿を学んでいますが、趣きが異なっていました。


<III.長谷川派と狩野派-親近する表現>
長谷川派と狩野派はライバル同士ではありましたが、お互いの表現に親近するものがあるそうで、長谷川派はいかに新しい面を打ち出せるか狩野派を研究し、狩野派は長谷川派の画題や表現に関心があったそうです。ここにはそれを伺わせる作品が並んでいました。

長谷川派 「波濤図屏風」 ★こちらで観られます
波が打ち寄せるゴツゴツした岩場を描いた屏風です。文様化されている波がうねって飛沫が飛び散る風景で、これは等伯が波濤図を描いて以来 長谷川派が得意としていた題材です。解説によると、金箔や金砂子が使われ等伯の作より装飾的な表現になっているそうで、色は抑えめに思いましたが力強く荒々しい雰囲気がありました。

狩野常信 「波濤図屏風」
先ほどの波濤図とよく似た構図の狩野派の作品が隣に並んで展示されていました。長谷川派の得意な画題を受け入れていた様子が分かるそうですが、雰囲気はちょっと違います。こちらは渦を巻く波がより一層 文様化されたような感じで、空から2羽の鳥が舞い降り金雲が漂うなど、どこか軽やかな雰囲気がありました。飛沫も多く色合いのせいかリズミカルな印象を受けます。

この近くには草花を描いた作品を両派で比べるコーナーもありました。


<IV.やまと絵への傾倒>
等伯は水墨画などの漢画だけでなく、やまと絵も積極的に学んだそうで、最後の章では等伯に関連するやまと絵が数点並んでいました。

長谷川派 「柳橋水車図屏風」 ★こちらで観られます
6曲1双の屏風で、画面の上の方を大きな金色の橋が覆うように描かれ、その脇には柳や川の中の籠、水車、文様化した水が描かれています。右隻には月が浮かび、雅やかな雰囲気があります。この作品は似たものを何度か観たことがあるのですが、この当時大いに盛り上がった図様らしく、狩野派の画中画にすた描かれたほどだったそうです。確かに面白い構図で素晴らしいと思います。
 参考記事:日本美術にみる「橋」ものがたり -天橋立から日本橋まで- (三井記念美術館)


ということで、全体的に点数は少なめで等伯自身の作も数点でしたが、狩野派と長谷川派の関わりがよく分かる内容となっていました。日本美術に興味がある方には特に参考になる良い展示だと思います。

おまけ:
今回、常設のムンクとルオーのコーナーも絵が変わっていて、特にムンクは「殺人」という絵など3点ほどとなっています。こちらも少数ですが見応えがあるのでお見逃しなく。
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酒井抱一と琳派みに行ってきました
千葉は遠い、行きにくいイメージがあったので、多少躊躇をしていたのですが、ブログに背中を押されて行ってきました。想像以上のボリュームに圧倒されましたが、それほど混雑もせず、心ゆくまでみることができました。やはり夏秋草図屏風の「一迅の風が瞬間にして永遠となった」美しさにしばし時間を忘れて見入ってしまいました。十二ヶ月花鳥図にも魅せられ、自然や動植物への慈愛が感じられ癒されました。思い切って行って本当に良かったです。帰り時間が読めずうっかりテレ東の「美の巨人たち」で東山魁夷先生をチェックし損ねてしまいましたが…(BSの再放送を待ちます)長谷川等伯と狩野派展にも楽しみに行きたいと思います。ありがとうございました!
Re: 酒井抱一と琳派みに行ってきました
>mikiさん
コメント頂きありがとうございます^^
東京からだと千葉は二の足を踏みますが、今回の展覧会は見逃せませんでしたね。
といいつつ後期を見逃してしまいましたがw 後期もかなり充実の内容であったと思いますので、羨ましいです。
等伯と狩野派はちょっと点数が少ないですが、いい作品がありましたよ。

美の巨人は一応、撮り貯めているのですが魁夷の回があったんですね。後でチェックしてみようかな。
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