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ザ・ベスト・オブ・山種コレクション [前期] 江戸絵画から近代日本画へ 【山種美術館】

先週の土曜日に土砂降りの中、山種美術館で「山種美術館創立45周年記念特別展 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」を観てきました。この展示は前期・後期となっていて、今回は「江戸絵画から近代日本画へ」となっていました。

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【展覧名】
 山種美術館創立45周年記念特別展 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション
 [前期] 江戸絵画から近代日本画へ

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html

【会場】山種美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅


【会期】2011年11月12日(土)~12月25日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
激しい雨が降っていたにも関わらずお客さんが多くて、場所によっては他のお客さんに接触するくらいの込み具合でしたが、しばらく待っていれば支障なく観られる位でした。

さて、今回の展示はこの美術館のベスト作品を集めた内容で、前期・後期で分かれているうちの江戸~近代の日本画の展示となっています。後期は戦前・戦後の作品となるようですが、その境目が分かりづらい気がしますので、お目当ての作品がある方は事前に公式サイトのリストで確認しておくことをお勧めします。
 参考リンク:[前期] 江戸絵画から近代日本画へ の出品リスト(pdf)

冒頭にこの美術館の成り立ちが書いてあったのですが、山種美術館は旧 山種証券の創業者である山崎種二と山崎富治の親子が蒐集したコレクションが元となって45年前に創立されました。山崎種二は15歳で米問屋に奉公に出たのですが、そこの主人の影響で絵画を蒐集する夢を持ち、独立後に酒井抱一の作品を購入するに至ったようです。しかし、この作品は贋作だったようで、種二はこの失敗を糧に同時代の日本の画家の作品を集めるようになりました。横山大観や上村松園、奥村土牛らとはコレクター兼パトロンのような存在となって彼らの活動を支えたようです。
詳しくはいつも通り、気に入った作品を通してご紹介しようと思います。なお、挙げていくものは以前ご紹介した作品が多いですが、改めて感想を書いていこうと思います。


【江戸絵画と浮世絵】
まずは江戸時代の画家の作品です。屏風や掛け軸、浮世絵などが並んでいました。以前ご紹介した「江戸絵画への視線」の展示の時の目玉作品も並び、まさにベスト版と言える内容となっています。
 参考記事:江戸絵画への視線 (山種美術館)

岩佐又兵衛 「官女観菊図」
水墨の濃淡で描かれた掛け軸です。牛車の中の十二単の2人の女性と、御簾を上げる女性が描かれ、車の脇には菊もあり、2人はそれを見ているようです。トリミングされたようなちょっと面白い構図となっていますが、確かこれは元は屏風の1扇だったものだったからだと思います。解説によると源氏物語の六条御息所を描いたもののようでした。

この辺には池大雅の「指頭山水図」などの作品もあります。

鈴木春信 「梅の枝折り」
壁に手をついて肩車をしている女性と、肩車の上で梅の枝を摘んでいる女性を描いた作品です。やや淡いものの色数豊かに刷られ、2人とも愛らしく楽しげな雰囲気があります。この作品も好みの1つです。

この辺は浮世絵のコーナーです。東洲斎写楽の「二世嵐龍蔵の金貸石部金吉」や葛飾北斎の「冨嶽三十六景 凱風快晴」なども展示されていました。保存状態が良いのが嬉しい。
 参考記事:
  浮世絵入門 -広重《東海道五十三次》一挙公開- (山種美術館)
  ボストン美術館 浮世絵名品展 (山種美術館)

俵屋宗達・本阿弥光悦 「四季草花下絵和歌短冊帖(全18枚)」
18枚からなる短冊帖で、宗達が絵を描き光悦が詩歌を書いています。金泥を使って絢爛ながらも落ち着いた雅さがあり、デフォルメされた草花の上に軽やかな筆使いの文字が流れるようでした。特に好きなのは「千羽鶴」などですが、今回は「夕顔」や「月に松山」なども改めて好きになりました。

この辺には俵屋宗達・本阿弥光悦の「新古今集鹿下絵和歌巻断簡」もあり、これだけでも私には嬉しいコーナーです。

酒井抱一 「飛雪白鷺図」
水辺で足を水に浸して斜め上を見る白鷺と、上から舞い降りてくる白鷺を描いた作品です。周りには草が生えていて、あちこちに白い飛沫のような雪が散らされています。静かで雪の日の空気感を感じ、デフォルメ具合が優美でした。

この近くにあった酒井抱一の「秋草鶉図」も大好きで、以前絵葉書を買った覚えがあります。


【近代日本画】
今回の展示の半分以上は近代日本画のコーナーです。こちらもベストと言える作品が並んでいました。
 参考記事:大観と栖鳳-東西の日本画 (山種美術館)

下村観山 「老松白藤」
6曲1双の金屏風で、中央付近に巨大な松の幹があり、左右に枝を伸ばしています。緑鮮やかな葉っぱが金地に映え、所々に巻きついて吊り下がる白い藤がアクセントになって美しい光景となっていました。実に見事な屏風です。

竹内栖鳳 「班猫」 ★こちらで観られます(pdf)
毛づくろいをしながら振り返り、こちらをじっと伺っている猫を描いた作品です。緑の目が神秘的で、ふわっとした毛並みの柔らかさからは気品を感じました。周りの余白が広いことも猫の魅力を引き立てているように思います。世の中に猫を描いた作品は数あれど、これはその中でも最上の1つじゃないかな。この美術館でも指折りの人気作だと思います。

この辺には菱田春草の「月四題」などもありました。

横山大観 「燕山の巻」
中国の風景を描いた水墨の巻物です。以前観たことがある場面とは違っていて、今回は山の上に建つ建物や城壁などが描かれた場面となっていました。濃淡の表現は流石で、中国ののどかな雰囲気が伝わってきました、

この辺には川合玉堂や橋本雅邦、川端玉章など日本画の大家が名を連ねていました。

小堀鞆音 「那須宗隆射扇図」
様式化された大きな波の中、馬にまたがり矢をつがえている鎧姿の那須与一を描いた作品です。その目線の先には赤地に金の日の丸の扇が掲げられた小舟が浮かび、女官や平氏たちも様子を見守っています。単純化されたところもあれば非常に緻密に描かれているところもあり、鎧の緑に朱色の馬具などやまと絵的な雰囲気がありました。緊張感と雅さのある作品です。

松岡映丘 「春光春衣」
今回のポスターにもなっている作品で、軒先にいる2人の十二単の女性(琵琶を弾いていた?)を描いています。手前には松と満開の桜があり、女性たちの着物の美しさと相まって非常に華やかな雰囲気です。金箔・金砂子なども使われ煌びやかでやまと絵らしい美しさがありました。
 参考記事:生誕130年 松岡映丘-日本の雅-やまと絵復興のトップランナー (練馬区立美術館)

この近くにあった西郷孤月の「台湾風景」や山元春挙の「火口の水」も素晴らしい作品でした。

石井林響 「総南の旅から 隧道口」
岩のトンネルの前で腰掛けて座っている2人の農家(または漁師の家?)の女性を描いた作品です。背中に荷物を運ぶ道具を背負っていて、ちょっと一休みという感じかな。トンネルは出口の向こうの風景も見えているのが面白いです。淡くぼんやりした画風も好みでした。

安田靫彦 「出陣の舞」
桶狭間の戦いの前に敦盛(人間五十年~で有名な舞)を舞う織田信長を描いた作品です。単純化されていて、踊っているにしてはやや硬いように思いますが、表情は覚悟を決めているような緊張感がありました。着物の色合いなどは鮮やかで美しいです。

この近くには腑分けをする大勢の医者を描いた前田青邨の作品などもありました。

村上華岳 「裸婦図」 ★こちらで観られます(pdf)
岩場に腰掛ける女性を描いた作品で、透ける衣を着ていますが、ほぼ裸婦と言える姿をしています。その流れるような体つきが優美で気品を感じます。左手で印を組むような感じで、遠くを見るような慈愛の目が仏画や観音像を思わせますが、一方でどこかモナ・リザのような印象も受けました。
これもここの人気作で、これを観た女性の自殺を思いとどまらせたという逸話まである作品です。
 参考記事:没後60年記念上村松園/美人画の粋(山種美術館)

上村松園 「蛍」
青い百合模様の浴衣を着た女性が蚊帳を準備しているところに、足元に蛍が飛んできたらしく、女性はそれに目を向けています。何とも初々しく可愛らしい表情で、その瞬間の喜びと驚きが伝わってくるようです。ポーズも緩やかな曲線が優美で、帯の淡いピンク、着物の青、蚊帳の緑の取り合わせが非常に美しかったです。

上村松園はこの他にも「砧」と「牡丹雪」もありました。上村松園にハズレはありません!w 近くには土田麦僊の「大原女」もありました。これも好きな作品です。

続いては第2会場の小部屋です。

速水御舟 「名樹散椿」
2曲1双の金屏風です。大きくうねうねとした椿の枝が描かれ、装飾的な椿の花が描かれています。解説によるとこれは俵屋宗達の影響を受けているようですが、よりデフォルメされていて平坦な感じでした。色の対比が重厚な雰囲気となっていました。
 参考記事:速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)

小林古径 「清姫のうち 寝所、日高川、入相桜」
能や歌舞伎で有名な道成寺を題材にした作品で、以前は8枚セットで観ましたが、今回は3枚セットで展示されていました。「寝所」では寝床で安珍に迫ろうとする清姫、「日高川」では怒りで蛇に変身する直前の清姫、「入相桜」では安珍・清姫ともに死んで、供養のための塚の上に咲く桜を描いています。特に「日高川」は暗い川に向かって手をかざし、長い髪が風に流れる感じが不穏ですが、どこか優美な雰囲気もありました。
 参考リンク:安珍・清姫伝説のWikipedia
 参考記事:日本美術院の画家たち (山種美術館)

最後の辺りには山口蓬春の「梅雨晴」や横山大観の「心神」などもありました。
 参考記事:百花繚乱 -桜・牡丹・菊・椿- (山種美術館)


ということで、展示される頻度が高い作品が多かったので、作品充実度を④にしておきましたが、それを換算しなければ作品充実度⑤だったと思います。これだけ素晴らしいコレクションを一気に見せてしまったら、今後の展示の目玉選びに差し障るのではないかと余計な心配をしてしまうくらいですw 一気に美味しいとこ取り出来るチャンスですので、日本画が好きな方は是非どうぞ。


追記:
  後日、後期展示も観てきました。
  参考記事:ザ・ベスト・オブ・山種コレクション [後期] 戦前から戦後へ (山種美術館)

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