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没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- (前期 感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

今日は前回の記事に引き続き、森アーツセンターギャラリーの「没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師-」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

PC162476.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師-

【公式サイト】
 http://kuniyoshi.exhn.jp/
 http://www.roppongihills.com/art/macg/events/2011/12/macg_kuniyoshi.html

【会場】森アーツセンターギャラリー  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】六本木駅

【会期】
 前期 2011年12月17日(土)~2012年1月17日(火)
 後期 2012年01月19日(木)~2012年2月12日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では3章までご紹介しましたが、後編は4章から最後までご紹介します。

 参考記事:
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  奇想の絵師歌川国芳の門下展 (礫川浮世絵美術館)


<第4章 美人画-江戸の粋と団扇絵の美>
4章は美人画のコーナーです。国芳は美人画も手がけていたようで、国芳の美人画は健康的で明るく、笑い顔が多く描かれているそうです。ここには貴重な団扇絵や肉筆画なども展示されていました。

178 歌川国芳 「美人子ども十二ヶ月シリーズ 清月の月」
大きな川に船が浮かぶ様子を背景に、バルコニーのようなところで飲み物の器を持って中秋の名月を見物している美人(目線は月を観ていませんが)と、後ろ姿の子供を描いた作品です。女性の着物は雪の結晶を意匠化した「雪輪文様」となっていて、これは当時のファッションを取り入れているようです。また、左の障子には、月明かりに照らされたヤシの木の葉っぱのようなもの影が見えているのが面白かったです。風情のある一枚でした。

216 歌川国芳 「艶姿十六女仙 豊干禅師」
手を裏返して組み、伸びをするようなポーズの女性と、その隣でアクビをしながら伸びをしている猫を描いた作品です。お互いの動きがシンクロするようで何とも微笑ましい光景です。猫も気持ちよさそうで可愛い^^

217 218 歌川国芳 「金龍山おくやまの景」「両国夕景」
両方共3枚セットの作品で、隣り合って展示されていました。どちらも中央に盆を持って歩く女性、左に子供を背負った女性と傘を持った子供、右に店先の椅子に座る客が描かれています。よく観ると背景が違っているものの、人物の位置とポーズが共通していて、「金龍山おくやまの景」は手品の見世物小屋の前にいる人々、「両国夕景」は両国の夕暮れ時で、右にいる人物が先ほどの絵では男だったのが女性に変更されています。(ポーズも反転した感じ) どうして似た構図にしたのかは分かりませんが、背景が変わるとがらっと違う印象になったのが面白かったです。

203 歌川国芳 「鏡面シリーズ 猫と遊ぶ娘」
猫の手を持ってポーズをとらせる美人を描いた団扇です。右上辺りに鏡のような枠があり、団扇を観ると鏡を見るような感じになることから鏡面シリーズと呼んでいるらしく、この作品以外にも何点か鏡面シリーズが展示されています。その発想も面白いですが、猫と戯れる様子は現代人のそれと変わらず、無邪気で可愛らしかったです。

411 歌川国芳 「夏衣美人図」
これは肉筆の掛け軸で、藍色の藤の柄の着物を着た色白の美人を描いた作品です。帯と胸元に手を当て、少し身をくねらせた姿が優美で、微笑んだ顔が優しそうでした。あえて藍一色の衣が涼しげです。

この辺には肉筆画が4点ほど並んでいました。(肉筆画・版木・版本は10章の位置づけのようですが色々な所にあります)


<第5章 子ども絵-遊びと学び>
この時代、天保の改革によって錦絵は啓蒙を旨とすべしというお達しがあり、子供を描いた作品が多く作られるようになったそうです。国芳も温かい眼差しで子供たちを描いたようで、のびのびとした雰囲気の作品が並んでいました。

231 歌川国芳 「稚遊雪花月の内 雪」
雪の降り積もる所で3人の女の子たちがせっせと雪を集めて雪うさぎなどを作って遊んでいる様子を描いた作品です。楽しそうに作業していて、微笑ましい光景です。 絵の左上には丸印に雪と書かれ、近くには花と月もあって雪月花となっているようでした。

この辺には士農工商を題材にした作品や、襖の開け閉めなどの作法を教えるような絵もありました。


<第6章 風景画-近代的なアングル>
国芳には風景を描いた作品もあるのですが、中にはオランダの本の挿絵などを元にした作品もあるようです。西洋の技法を自分のものとして消化し、作品に反映しているケースもあり、ここにはそうした作品も並んでいました。、

263 歌川国芳 「近江の国の勇婦於兼」
手綱を踏んで暴れ馬を抑えている おかね という怪力の女性を描いた作品です。馬は陰影が濃く、西洋の技法を感じる一方で、おかねは普通の浮世絵風となっています。また、この作品の隣にはニューホフ著の東西海陸紀行という本の写真があり、背景が似ていると解説されていました。この馬もイソップ物語に似たのがいるらしいので、それを元にしているのかもしれません。西洋絵画を研究していたのがよく分かる1枚です。

この辺には東都名所シリーズも並んでいました。

274 歌川国芳 「東都富士見三十六景 昌平坂の遠景」 ★こちらで観られます
右に坂道、左に遠くの富士山が見える昌平坂という所を描いた作品です。坂はかなりの傾斜のようで、中央付近のちょっと高くなった部分でそのキツさがわかります。また、坂の向こうから来る人が上半身だけ描かれている表現や近景・中景・遠景の構図も面白かったです。


<第7章 摺物と動物画-精緻な彫と摺>
続いては摺物という注文制作による非売品などを展示したコーナーです。摺物は新年の配り物や役者の披露の際に配られたそうで、売買で禁じられた金刷りや銀刷りの贅沢な品もあるようです。ここは6点のみでしたが貴重な作品が並んでいました。

295 歌川国芳 「しんば連 魚かし連 市川三升へ送之」 ★こちらで観られます
江戸から追放された父に会いに行く市川海老蔵のはなむけに描かれた作品です。手前に海老蔵が扮する鍾馗様が赤色で描かれた旗、その後ろには大きな鯉のぼりが描かれています。これだけ観ると端午の節句を思い浮かべますが、旅の無事を祈る意味が込められているようです。とにかく変わった構図で、旗の幾何学的な形と対角線上にぬっと出てくる鯉の姿にインパクトがありました。


<第8章 戯画-溢れるウィットとユーモア>
国芳と言えば戯画を思い浮かべる人も多いかと思いますが、天保の改革で役者絵などが禁止された際に、国芳は動物や妖怪などを使って表現したり、隠喩で批判したりと却って幅広い作風を生み出しました。ここにはそうした反骨とユーモアを感じる作品が並んでいました。

312 歌川国芳 「道外化もの夕凉」
店先に腰掛けて、タバコを吸ったり何かを飲んで談笑する妖怪たちを描いた作品です。何の妖怪なのかは分かりませんが異形の姿をしているものの、楽しげな雰囲気が伝わって来ました。

この辺には猫を擬人化した絵などもありました。

322 歌川国芳 「[絵鏡台合かゞ身]猫/しゝ・みゝづく・はんにやあめん」 ★こちらで観られます
2枚セットで左は障子に映る影、右はその障子の裏側を描いています。左は向き合う獅子、般若、みみずくの影ができているのですが、左には猫が飛び跳ねたり取っ組み合いしている様子となっていて、獅子と般若の目玉は猫の鈴の影だったりします。形は同じなのに全く別のものに見えるのがトリックアート的で面白いです。
この隣にも七福神が曲芸しているのがかたつむりや蛇の影になる作品もあります。また、猫が集まって「ふぐ」の文字になっている当て字の作品もありました。

少し進むと、キツネの嫁入りや狸の金玉シリーズ、巨人の朝比奈三郎のシリーズ、何人もの人が合体して1人の人を成す358「としよりのよふな若い人だ」360 「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」などもあります。この辺は定番ですが何度観てもその発想の自由さに驚きます。

362 歌川国芳 「たとゑ尽の内」 ★こちらで観られます
3枚セットの作品で、揃って展示されるのは初めてのことだそうです。いずれも猫たちを描いていて、鰹節を見つめる猫や、小判を見ている猫、お膳に向かって舌を出している猫とそっぽを向いた猫など無数の猫がいます。これは猫に関することわざを集めたもので、先ほどのは猫に鰹節、猫に小判、猫舌、猫も食わない などとなるようです。非常に機知に富んでいて、国芳の猫好きぶりが伝わって来ました。

この先にも海老や金魚の影絵の作品や370「荷宝蔵壁のむだ書」といった国芳の独創性を感じる作品が並んでいます(この辺も以前の記事でご紹介したので割愛します)


<第9章 風俗・娯楽・情報>
最後はメディアとしての役割をした錦絵のコーナーです。当時の流行や事件を感じさせる作品が並んでいました。

383 歌川国芳 「勇国芳桐対模様」
3枚セットで、国芳一門が山王祭を観に行列して出かける様子を描いた作品です。左で背を向けて手を広げているのが国芳らしく、自分を描く時は顔を描かなかったそうです。列には沢山の弟子が並び、自分の名前が書かれた扇子などを持っているので誰が誰か分かるようです。皆明るい表情でお祭りの楽しさや国芳一門の人情味が伝わってくるようでした。
国芳は江戸っ子気質の親分で、弟子を可愛がり弟子に慕われたそうです。気取ったことはしない粋な国芳の人柄が作品のあちこちで感じられます。

394 歌川国芳 「大漁鯨のにぎわひ」
3枚セットで、中央に大きな鯨がいてその周りには舟に乗った沢山の見物人の姿があります。この鯨は迷いこんで死んでしまったようですが、小高い山のような大きさで、皆で指を指したりして大いに盛り上がっています。舟まで出して物見高いというか野次馬というか…w 背景には舞飛んでくる鶴や富士山なども描かれ、のんびりした雰囲気がありました。

最後には「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」の版木も展示されていました。また、水滸伝の双六や書簡、国芳の死絵(死んだ人を描いた作品)などもあります。


ということで、定番の作品から珍しい作品まで、非常に充実した内容となっていました。 国芳の作品は色々と洒落や批判が込められているので、もうちょっと解説があっても良いように思いますが、その一方で単純な面白さもあるので絵に詳しくない人でも楽しめるのが国芳の魅力だと思います。決定版とも言える内容だったので、図録も買いました。 これは後期も楽しみです。

おまけ:
今回の展示はグッズも豊富でした。
PC162479.jpg

 追記:後期も行ってきました。
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)



 参照記事:★この記事を参照している記事


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No title
こんばんわ!
 今年はいろいろな美術館で歌川国芳の展覧会が開催されましたが、この集大成のようなので、とてもよい予習になりました。このグッズの多さから察するにそうとう気合いのはいった展覧会のようですね~
 
Re: No title
>だまけんさん
コメントありがとうございます。
こちらの展示は驚くほどの点数でしたよ。今年は国芳の作品を見る機会も多かったですが、これは見逃せないと思います。
後期と入れ替えが多そうですが、だまけんさんも両方行かれるのではないでしょうか^^
グッズも面白かったですよ
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