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日本の映画ポスター芸術 【東京国立近代美術館フィルムセンター】

前回ご紹介した資生堂ギャラリーを観た後、京橋近くの東京国立近代美術館フィルムセンターに移動して、「日本の映画ポスター芸術」を観てきました。

P1142692.jpg P1142691.jpg

【展覧名】
 日本の映画ポスター芸術

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/FC/POSTERJAPAN/index.html

【会場】東京国立近代美術館フィルムセンター  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR東京駅・銀座線京橋駅・都営浅草線宝町駅など

【会期】2012年1月7日(土)~3月31日(土)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていてゆっくり観ることが出来ました。

さて、ここはパンフレットやポスターの展示をよくやっていますが、今回の展示は日本映画のポスターを題材にしたもので、特に1960年代~70年代を中心に100点程度の作品が並んでいました。大体は時代順になっていて、簡単に日本映画のポスターの歴史もわかるようになっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。

 参考記事:
  映画パンフレットの世界 (東京国立近代美術館フィルムセンター)
  戦後フランス映画ポスターの世界 (東京国立近代美術館フィルムセンター)
  「カナダ・アニメーション映画名作選」と「無声時代ソビエト映画ポスター展」


<第1章 モダニズムの幕開け>
まずは無声期の1930年代のコーナーです。この頃、「活動写真」から「映画」へと脱皮を遂げた日本映画は、大衆芸術として幅広い層に定着していったそうです。そして、旧来のポスターは映画館の上映プログラムを伝達するものだったのが、この頃から配給会社の主導で作品ごとのポスターが登場したようです。中でも松竹と東方はデザイナーや画家、漫画家を積極的に起用したそうで、ここにもアーティスティックなポスターが並んでいました。

河野鷹思 「父」(1930年、佐々木恒次郎監督)
これはイラストのポスターで、対角線上に伸びる鎖と、船の側面と思われる壁が描かれ、その2つが織り成す三角形の中に、海に浮かぶ船が描かれています、シンプルで単純化された画面ですが、構図が面白くどこかアール・デコ時代のポスターのような雰囲気を感じました。

河野鷹思 「天一坊と伊賀亮」(1933年、衣笠貞之助監督)
これもイラストのポスターで、黄色いL字丞の帯に赤地でタイトルと役者たちの名前が書かれ、右上に簡略化された男の顔が描かれています。補色関係のせいか色の対比が強く、明快なデザインで目を引きました。

この辺にはいかにも戦前の大衆的な雰囲気のあるポスターなども並んでいました。


<第2章 絵画、イラストレーションから劇画へ>
戦後、戦災から立ち直った日本映画は大きな隆盛時代を迎えました。日本だけではなく外国映画も紹介されるようになり、この頃のポスターはB2サイズが主流のフォーマットとなったそうです。各社は自社の宣伝デザイン部や外部アーティストを起用してポスターを製作したそうで、中にはアーティスト自身が映画作りをするケースもあったようです。

猪熊弦一郎 「生きる」(1952年、黒澤明監督)
ブランコに座る紳士とブランコの上に立って腰に手を置く女性を描いたポスターです。2人ともさわやかな笑顔をしていて、この映画の名シーンを思い起こさせます。これは宣伝用の写真を元に描いているようで、近くに参考として写真もありましたが、かなり写実的でした。いのくまさんの作風を知っているとそれも面白いです。
 参考記事:猪熊弦一郎展『いのくまさん』 (東京オペラシティアートギャラリー)

岩田専太郎 「樽屋おせん 好色五人女」(1948年、野渕昶監督) ★こちらで観られます
これは日本画風で、身をくねらせて黒髪を梳かす仕草の着物の女性を描いています。白い肌で流し目しているような表情が非常に色っぽく、優美な雰囲気がありました。
岩田専太郎の美人画のポスターは何点かありましたが、いずれも好みでした。

黒澤明 「どですかでん」(1970年、黒澤明監督)
赤地の街並みと、空に浮かぶ大きな太陽の中に沢山の人達が描かれたポスターです。後期のシャガールを思わせる画風で、街並みの右には大きなおでこの人物の横顔も描かれていました。黒澤明自身がこういう絵を描いているとは知りませんでした。(というか、この作品の存在もすっかり忘れていましたw)


<第3章 《アート・ポスター・ギルド!》>
1961年になると、従来の大掛かりな映画配給網では公開の難しい芸術性の高い作品を配給する新組織として日本アート・シアター・ギルド(ATG)が設立されました。最初はヨーロッパ映画の紹介が主でしたが、「1000万円映画」と呼ばれる低予算の日本映画も製作するようになったようです。ポスターは監督も話し合いに参加して若手のデザイナーやアーティストが自由な着想で制作したらしく、ここにはそうしたポスターが並んでいました。

大島弘義 「とべない沈黙」(1966年、黒木和雄監督)
これは白黒写真で、黒衣の女性がネットに包まれている様子が写っていて、そこに蝶が2羽舞い飛ぶ絵が描かれています。タイトルと合わせて意味深でシュールな雰囲気がありました。

朝倉摂 「修羅」(1971年、松本俊夫監督)
これは白黒写真を使ったポスターで、縦5マス横5マスに区切られたところにそれぞれに大写しになった役者の顔が移っています。上の縦2×3マスくらいはタイトルですが、他の部分は目を開いて驚くような表情の男の顔がいくつも写っていて異様な雰囲気がありました。ちょっと怖いけどインパクトがあります。

小笠原正勝 「絞殺」(1979年、新藤兼人監督)
黒地に白字で小説のように文字がびっしり書かれたポスターです。所々に映画のシーンを思わせる写真があり、中央の下のあたりにが赤地に白字で「絞殺」の文字があり、これも目を引きました。


<第4章 シネマ・ゴーズ・グラフィック>
戦後映画ポスターは横尾忠則や和田誠など数々のデザイナーも取り組んだらしく、ここでは1960~70年代の映画とグラフィズムの交差を取り上げていました。

粟津潔 「他人の顔」(1966年、勅使河原宏監督)
スプレーを吹きつけたような質感で、おぼろげで布を巻いたような人の顔が描かれています。目は爛々として鼻や口はわからないのですが、薄笑いしているような感じを受けて怖いです。また、その周りを白く太い枠で囲っているのも不気味さを強めているようでした。

横尾忠則 「新宿泥棒日記」(1968年、大島渚監督)
中央に主演の男女が姿があり、その下に逆さになって足を大きく上げた人のお尻が写っていて、周りにも何人かの人物が写っています。これは横尾忠則自身が主演しているそうで、ちょっと安っぽさや笑える部分もありつつ、猟奇とエロスを感じるポスターとなっていました。

和田誠 「金田一耕助の冒険」(1979年、大林宣彦監督)
トランクを持ち、頭をかきむしってフケを飛ばしながら歩く金田一耕助(古谷一行)と、その後ろからついてくる人物(田中邦衛)を描いた作品です。手前の道には穴があり、そこには監督の姿も描かれています。デフォルメされて可愛らしい雰囲気ですが、役者の特徴が出ているようでした。和田誠は幅広い画風に思いますが、この絵は星新一の本の挿絵と同じ雰囲気で描かれていたので、それだけでも何か懐かしいものを感じました。

この辺にあった宇野亜喜良の『初恋・地獄篇』というポスターも猟奇的で面白かったです。

佐藤晃一 「利休」(1989年、勅使河原宏監督)
暗い背景に置かれた黒い茶碗の中から、青白い光が仄かに漏れているようなポスターです。その上には「美はゆるがない」というキャッチコピーがあり、利休の姿勢を彷彿とさせました。すっきりしているデザインで好みです。

佐藤晃一 「火の鳥」(1978年、市川崑監督)
これは手塚治虫が原作(黎明編)の実写版映画のポスターのようです。全体的に赤地を背景にしていて、四角く区切られた宇宙空間のような所から、火の鳥が上に向かって飛んでいくような構図となっています。火の鳥の周りには幾重にも円があり、光輪のような神秘的な雰囲気がありました。幾何学性や色使いも現代アートのようだし、これは良いポスターだと思います。(こんな映画があったのか!?と調べたら内容は散々だったそうでw)


ということで、私が観たことがある映画は2~3しかありませんでしたが、思った以上に楽しめる内容でした。映画に詳しい方や観たことがある方はもっと楽しめるんじゃないかな。公式ページには作品リストもありますので、気になる方はチェックしてみてください。
 参考リンク:作品リスト


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Comment
No title
こんばんは。
昨年の夏、この展覧会の看板に載っている「大人は判ってくれない」の野口久光のポスターの展覧会が兵庫県でありました。
ポスター展も楽しいですよね。
Re: No title
>Ms.れでぃ さん
コメント頂きましてありがとうございます^^
この映画も私は観たことがないのですが、良いポスターですよね。
流石に美術館で展示されるだけあります。
ここはよくポスター展をやるのですが、国や時代によって文化の特徴が出るのが面白いです。
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