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ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 (感想前編)【三菱一号館美術館】

先日ご紹介した旧新橋停車場 鉄道歴史展示室の展示を観た後、三菱一号館美術館へ行って「岐阜県美術館所蔵 ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 三菱一号館美術館 グラン・ブーケ 収蔵記念」を観てきました。かなり好みの作品が多く、メモも多めにとってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 岐阜県美術館所蔵 ルドンとその周辺-夢見る世紀末展
 三菱一号館美術館 グラン・ブーケ 収蔵記念

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/redon2012/

【会場】三菱一号館美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅

【会期】2012年1月17日(火)~3月4日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
凄い混んでいるというわけではないですが、ここは館内に狭い所があるので、若干混雑した感じはありました。まあ、自分のペースで観るには支障のない程度です。

さて、今回の展示のメインは三菱一号館美術館の新収蔵品であるルドンの「グラン・ブーケ」ですが、それ以外のルドン作品の多くは岐阜美術館の所蔵品のようで、岐阜美術館はオディロン・ルドンの作品を250点ほど所有しているそうです。この展覧会は岐阜美術館の改修を機に139点もの作品が出品され、12人の象徴主義の画家の作品と共に紹介されていました。詳しくは気に入った作品と共にご紹介しようと思います。

 参考記事:
  黙示録―デューラー/ルドン (東京藝術大学大学美術館)
  19世紀フランス版画の闇と光 ― メリヨン、ブレダン、ブラックモン、ルドン (国立西洋美術館)


<第一部 ルドンの黒>
まずはルドンの版画のコーナーです。オディロン・ルドンは1840年にフランスのボルドーで生まれました。アメリカで財をなした父とフランス系アメリカ人の母を持ち裕福な家庭だったようですが、病弱で生まれて間もなくペイルルバードという荘園屋敷に送られ、親戚の老人に育てられたそうです。11歳で学校教育を受けるためにボルドーに連れ戻され、15歳になると地元の画家の家に通って手ほどきを受けたそうで、20代なかばにはパリで新古典主義の画家に師事しました。しかし、挫折してボルドーに戻り、ボルドーにいた放浪の版画家 ロドルフ・ブレスダンを通じて白黒の表現に可能性を見出したようです。1870年の普仏戦争の後、30代となったルドンはパリに家を借りて、冬はパリ 夏はペイルルバードで木炭画を作成したそうです。そして、「夢のなかで」のシリーズで実質的なデビューを果たしました。この章ではそうしたルドンの白黒の版画作品を中心に展示していました。

1 オディロン・ルドン 「浅瀬(小さな騎馬兵のいる)」
岩山の中に馬に乗った騎士たちが描かれたエッチングの作品です。解説によるとこれはブレスダンに倣って描いたそうで、「ローランの歌」という中世の騎士物語を思わせ、ロマン主義の美意識が反映されているようです。細かく線で陰影をつけていて、大きな岩山は雄大な雰囲気がありました。

7 オディロン・ルドン 「樹(樹のある風景の中の二人の人物)」
樹木の下にいる2人の人物を描いた木炭画です。全体的に暗くぼんやりした感じで、人に比べると樹が大きく感じられます、ルドンはカミーユ・コローにも会ったことがあるそうで、「想像の隣に自然を描くように」というアドバイスを受け、これをずっと守ったそうです。 確かにこの作品はコロー風の樹の表現や柔らかい空気が感じられるように思いました。

この辺にはルーヴル美術館にあるルネサンス期の作品の模写などもありました。他には骸骨を持ったハムレットなど、早くも神秘的な雰囲気の作品も観られます。

15 オディロン・ルドン 「[夢のなかで] 2.発芽」
暗闇の中に浮かぶ人の顔が3つくらい描かれた作品です。ポツンポツンと浮かんでいて、隕石のようにも見えるかな。その目はどこか虚ろな感じでした。黒の使い方に深さを感じます。

この部屋は「夢のなかで」のシリーズが続きます。

18 オディロン・ルドン 「[夢のなかで] 5.賭博師」
大きなサイコロを背負った人物が描かれた作品です。手前には黒い木が3本描かれ、枯れ木のように見えます。何かの罰を受けているのか、荒涼として寂しい雰囲気がありました。

21 オディロン・ルドン 「[夢のなかで] 8.幻視」
円柱の並ぶ宮殿のような所に、大きな目玉が浮いている様子が描かれた作品です。これはギュスターヴ・モローの「出現」を元にしているそうで、モローの作品では洗礼者ヨハネの首が描かれているのに対して目玉になっています。目玉からは光が発せられているような表現で、手前にはそれを見ている男女の姿があり、その2人との比較で目玉の大きさを感じました。ちょっと不気味ですが、目玉はルドンの作品によく出てきて幻想的な効果を生んでいるように思います。

23 オディロン・ルドン 「[夢のなかで] 10.皿の上に」
足のついた皿の上に置かれた人の首を描いた作品です。棘のついた兜を被っているのですが、これはプロシア軍が被っていたものを思わせるそうです。またテーブルの脇にはピッケルが落ちているのもそれに関連するようです。 眼は虚ろで観ていて不安な気分になりました。

この辺には骸骨を描いた作品や、黒い太陽と呼ばれる黒円をモチーフにした作品、気球を描いた作品などが並んでいます。気球はパリがプロシア軍に包囲された際には通信手段として使われたとも解説されていました。

30 オディロン・ルドン 「[エドガー・ポーに] 1.眼は奇妙な気球のように無限に向かう」 ★こちらで観られます
これは有名な作品で、何年か前のbunkamuraでのルドン展でもポスターに使っていた記憶があります。まつげが沢山生えた目玉が気球となっていて、皿に乗った人の頭を乗せています。その取り合わせも奇妙ですが、白黒の濃淡がさらに不思議さを増す効果があるようにい思いました。

なお、「エドガー・ポーに」は2番目の石版画集で、喪失感に満ちたエドガー・アラン・ポーの文学世界はルドンの絵にも影響を与えたようです。この作品では特にエドガー・アラン・ポーの小説に取材しているわけではないようですが、それとなく暗示しながら空想しているようでした。

26 オディロン・ルドン 「沼の花」
水面から茎を伸ばす植物に人間の頭がついている人面花を描いた作品です。その表情はぼんやりしていて、目が死んでいるような感じです。背景には舞い飛ぶ白い鳥たちの姿があるので、かえってじっとしているように観えました。
ルドンは1880~85年辺りにこうした人間の頭の植物を描いていたそうです。ボルドーの植物園で働いていた植物学者のアルマン・グラヴォ-という人物との関係性が指摘されているそうで、この人はルドンの文化的・精神的な師のようなもので、進化論や生物学、文学などへの感心を誘うなどルドンに影響を与えたそうです。

この辺にはこうした目玉を描いたインパクトのある作品や人の頭の植物を描いた作品などが並んでいました。「ゴヤ頌」という作品もあり、ルドンはしばしばゴヤに例えられていたそうです。2人に直接的な関係はありませんが、ゴヤも晩年でボルドーで過ごしています。確かにこの作風ならそう言われるかもしれません。生まれ変わりじゃないか?なんて思われてそうw
 参考記事:
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想後編(国立西洋美術館)

42 オディロン・ルドン 「[夜] 3.堕天使はその時黒い翼を開いた」
黒い翼を持った禿頭の裸体の男性が描かれ、この人物が堕天使のようです。しかし年老いて飛べないそうで、左上に描かれた太陽に眼を向けています。どこか力なく後悔しているようにも観えました。

この辺にはベルギーの20人会のオクターヴ・マウスに贈った作品などもありました。ルドンは20人会の展覧会に招待されていたようです。
 参考記事:
  アントワープ王立美術館コレクション展 (東京オペラシティアートギャラリー)
  ベルギー王立美術館コレクション『ベルギー近代絵画のあゆみ』 (損保ジャパン東郷青児美術館)

48 オディロン・ルドン 「[夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出に)] 1.それは一枚の帳、ひとつの刻印であった」
アルマン・クラヴォーの顔が聖顔布のように布に描かれている作品です。口を結んでいて無表情に見え、虚ろな感じもします。ルドンに精神的に影響を与えた人物ですが、最後は首をつって亡くなったそうです。
このシリーズも6点ほど並んでいました。いずれも幻想的です。

44 オディロン・ルドン 「蜘蛛」
これも有名な作品かな。ニヤリとした顔の蜘蛛(と言うか「まっくろくろすけ」に細長い足が生えたような)を描いた作品です。蜘蛛に対する不合理な恐怖を巡る心理学的関心を元に描いたそうですが、あまり怖くなく、むしろ愛嬌があるように思えました。それにしても何を笑っているのだろうか…。

この辺には「眼をとじて」のリトグラフもありました。
 参考記事:
  オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)
  世紀末、美のかたち (府中市美術館)

59 オディロン・ルドン 「光」
大きな窓に巨人のように大きな人が、顎を指でつまむようにして物思いに耽っている様子を描いた作品です(窓ではなく画中画?) その前には身振りをしながら見ている2人の人物の姿もありました。枠の中は白っぽくなっていて、ここまで観てきた作品と比べると明るく見えるかな。解説によると1890年代からは黒から光に向かって変容していった時期だそうです。

この近くには女性の横顔を描いた肖像が3点くらいありました。ルネサンス風の構図もあります。


ということで、今日はこの辺にしておこうと思います。版画だけでも幻想的な世界となっていて、独特の感覚を味わうことが出来ました。さらに2章には今回の目玉作品もありましたので、次回はそれを含めてご紹介しようと思います。


 → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事

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