今日は前回の記事に引き続き、三菱一号館美術館の「ルドンとその周辺-夢見る世紀末展」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。
前編は
こちら
まずは概要のおさらいです。
【展覧名】
岐阜県美術館所蔵 ルドンとその周辺-夢見る世紀末展
三菱一号館美術館 グラン・ブーケ 収蔵記念
【公式サイト】
http://www.mimt.jp/redon2012/【会場】三菱一号館美術館
★この美術館の記事 ☆周辺のお店【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅
【会期】2012年1月17日(火)~3月4日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間00分程度
【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
前編の第一部では白黒の作品についてご紹介しましたが、後編では色つきの作品と、象徴主義の画家たちの作品をご紹介しようと思います。
<第二部 色彩のルドン>1890年代になると、科学万能の合理主義に嫌気をさした知識人達は精神的なものを取り戻そうしていたそうで、ルドンは若い画家達から先駆者として高い評価を受けたそうです。しかし、ルドンは黒の作品が高く評価された頃に色彩の世界に脱皮しようとしていたらしく、木炭に材質が似たパステルに移行し、さらに油彩にも挑戦していったようです。また、私生活でも1880年に結婚した妻のカミーユとの間に子供が誕生すると(1889年)、若い希望のシンボルとなったようです。
1898年にはペイルルバードの家が売却されたらしく、これはルドンの黒の時代の終了の象徴と言えるようです。その後の1900年代は肖像、花、神話など新しい分野にも作風を広げ名声が高まりました。そして1916年の第一次世界大戦の頃、息子が出征したのを案じながら76歳で肺炎で亡くなったそうです。ここにはそうした時代のパステルや油彩の作品が並んでいました。
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オディロン・ルドン 「薔薇色の岩」砂浜にある大きなピンク色の岩を描いた作品です。全体的に色は淡めで様々な色で岩肌の質感を出しています。周りには砂浜・海・空が広がっていて、ポツンと寂しい雰囲気でした。ルドンにこういう主題があるとは知らなかったので意外でした。
77
オディロン・ルドン 「ポール・ゴビヤールの肖像」ピンク色のドレスを着た女性の横向きの姿を描いた作品で、この女性は女性画家のベルト・モリゾの姪だそうです。青っぽい背景で、頭の周りだけ影のように暗くなっていました。無表情で静かな雰囲気があります。
ルドンはナビ派の画家やコレクターとも交流があったそうです。
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オディロン・ルドン 「オフィーリア」暗闇の中、目をつぶって川に沈んでいくオフィーリア(ハムレットの登場人物)が描かれています。緑の水面に浸かっていて、顔も緑がかり力ない感じです。右上には月?がぼんやり浮かび、神秘的で悲劇的な雰囲気がありました。
81
オディロン・ルドン 「アポロンの戦車」空飛ぶ4頭の馬たちと、その後ろに赤と黄色の炎のようなものが描かれた作品です。この炎がアポロンのようで、その下には蛇の姿があり退治されているようです。独特の淡い色使いで、幻想的な雰囲気がありました。解説によると、これはルーブル美術館のドラクロアのアポロンの間の天井画を参考にしたそうで、実際に模写も行なっていたようです。
84
オディロン・ルドン 「オルフェウスの死」バッカスの巫女たちに八つ裂きにされた竪琴の名手オルフェウスの首が川に流れている様子を描いた作品です。周りは草木の葉や岩などが描かれ、オルフェウスは木のように茶色っぽい色が使われていました。細部ははっきりしていない感じで抽象的な感じでした。
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オディロン・ルドン 「花」花瓶に入った沢山の花々を描いた作品です。結構色鮮やかに描かれているように思うのですが、それでも神秘的な雰囲気を湛えているのが不思議です。花瓶の周りは台や背景の境なども無く、宙に浮かんでいるようにも思えました。
花は晩年によく描かれた主題で、この辺には花を描いた作品が並んでいました。
参考記事:
ポーラ美術館の常設<第三部 ルドンの周辺-象徴主義の画家たち>最後は象徴主義のコーナーです。伝統的な絵画の規則に頼らず夢を具現化したルドンはナビ派やムンクなど多くの画家に影響を与えたそうです。ここにはそうした画家やギュスターヴ・モローなど象徴主義を代表する画家の作品もありました。また、何故かこのコーナーに今回の目玉であるルドンの「グラン・ブーケ(大きな花束)」も展示されています。
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ギュスターヴ・モロー 「ピエタ」荒野の中で青い衣を着たマリアが十字架から降ろされた半裸のキリストを抱えている様子を描いた作品です。周りは暗くキリストとマリアはぼんやり明るく見えます。右下には悲しむ人々の顔もありました。静かに悲しんでいる様子が伝わり、繊細な描写でありながら神話的な雰囲気がありました。
この辺にはルドンが影響を受けたブレスダンの版画などもありました。恐ろしく緻密な作風です。
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アンリ・ファンタン=ラトゥール 「幽霊船のフィナーレ」ワグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」に着想を得て作成されたリトグラフです。呪いをかけられ死ぬことが出来なかったオランダ人船長が、乙女ゼンタによって昇天していくシーンを描いているそうで、手を上げて天を仰ぎ見る白いドレスの女性と、その左下に黒い服の男性が描かれています。身体が背景に溶けこむようなぼんやりした感じや、流れを感じる表現が昇天の雰囲気を出していました。
この辺はラトゥールのいい作品が多くて、ラトゥール好きとしては嬉しい驚きです。ラトゥールは転写法リトグラフをルドンに薦めたそうです。
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エドヴァルド・ムンク 「マドンナ」これは有名な作品かな。ぐるぐるの線で表現された虚ろな目をした黒髪の女性を描いた作品です。周りには不穏な雰囲気の輪郭があり、全体的に退廃的で妖しい雰囲気があります。右下には痩せた胎児の姿もあり不気味さすら感じます。また、枠を囲うように赤地に白い精子のイメージの文様があり、これは無原罪懐胎を拒否するムンクの見解が込められているとのことでした。
続いて下の階へ移動します。またルドンの色彩の作品が並んでいました。
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オディロン・ルドン 「翼のある横向きの胸像(スフィンクス)」 ★こちらで観られますパステルの作品で、横向きの緑の頭の女性が描かれ、その背中には青い羽根を持っています。顔の周りは黄色くなっているなど、色の取り合わせが独特の雰囲気を出しています。スフィンクスは破滅を招くファム・ファタール(運命の女)のイメージがあるようですが、そんなに暗いところは無いように観えました。
なお、解説によると、これはロベール・ド・ドムシー男爵の所蔵品だったそうです。ロベール・ド・ドムシー男爵はこの後出てくるグラン・ブーケをルドンに依頼した人物らしく、この辺にはルドンと男爵についての解説などもありました。
オディロン・ルドン 「グラン・ブーケ(大きな花束)」 ★こちらで観られますパトロンのロベール・ド・ドムシー男爵が食堂の装飾をルドンに依頼した際に作られた16点の作品のうちの1点です。他の15枚はオルセー美術館に所蔵されたようですがこの作品だけは当初の場所に残っていたらしく、2010年に外され日本では初めて展示されるようです。その名のとおり非常に大きな作品で248.3cm×162.9cmもの大画面に青い花瓶に入った色とりどりの花が描かれています。オレンジ、黄色、緑など明るめの色で見栄えがしつつ、それでいてルドン独特の神秘的な雰囲気があり、非常に素晴らしい作品でした。展覧会後に買った小冊子に他の15点も一緒に載っていましたが、この絵がずば抜けて良いです。
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マックス・クリンガー 「[手袋] 2.行為」エッチング作品で、手袋を拾おうとする男性と、それを落としたと思われる貴婦人、その奥にも3人の男女が描れています。これはローラースケート場らしく婦人と3人の人物は左右に身体が傾いているのが面白いです。(ローラースケート場ということを知らないとちょっと妖しい雰囲気かもw) その配置の仕方もリズムがありました。
この辺はクリンガーの「手袋」のシリーズが並んでいました。様々な手袋を題材にした作品が並びウィットに富んだシリーズです。
その隣はゴーギャンのコーナーで、水彩によるモノタイプの作品やノアノアの版画などが並んでいました。自刷とルイ・ロワ版を比較することもできます。
参考記事:
ゴーギャン展2009 (東京国立近代美術館)126
エミール・ベルナール 「ポンタヴェンの市場」沢山の人達で賑わう市場の風景を描いた油彩作品です。白い布を被って黒い服を着た女性たちや、赤や青、緑の果実や釣り下げられた帯状のものなど、平坦で単純化された作風で描かれています。強い色彩もナビ派らしく、これも良い作品でした。以前観たことがあるように思うのですが、どういう機会だったか思い出せず…
132
アリスティド・マイヨール 「山羊飼いの娘」彫刻家として有名なマイヨールの油彩画で、マイヨールは当初は画家を目指していたそうです。この絵は積みわらのある畑を背景に山羊を連れて歩く農家の娘が描かれています。淡く平坦な感じの作風で、ナビ派に影響を受けているようでした。どこか爽やかな印象を受けます。
この部屋には他にナビ派のケル=グザヴィエ・ルセルの作品や、モーリス・ドニの「なでしこを持つ若い女」などもありました。
参考記事:
ロートレック・コネクション (Bunkamuraザ・ミュージアム) モーリス・ドニ -いのちの輝き、子どものいる風景- (損保ジャパン東郷青児美術館)今回は1階にも展示が続いていました。
127
ポール・セリュジエ 「森の中の焚火」暗い木の間で焚き火をしている3人の黒い衣の人物を描いた作品です。これは何かの儀式をしているのでは?とのことですが、焚き火の灯りが広がって神秘的な雰囲気がありました。平坦で単純化されたナビ派らしい作風でした。
参考記事:
オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)78
オディロン・ルドン 「眼をとじて」青を背景に眼を閉じている女性と、ケシの花?などが描かれた作品です。ルドンは眼を閉じた女性をよく描いていますが、これは静けさと共にやや明るめな雰囲気があるように思いました。解説によると曲線や花はアールヌーボーとの関連が見られるようです。
参考記事:
オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館) 世紀末、美のかたち (府中市美術館)ということで、白黒作品も色彩作品も楽しめた上、象徴主義の面白い作品も観られる内容で大満足でした。元々私がルドンや象徴主義が好きというのもありますが、それを差し引いても良い展覧会だと思います。せっかくなので図録も買いました。
参照記事:
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