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生誕100年 ジャクソン・ポロック展 (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京国立近代美術館の「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

P2263195.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 生誕100年 ジャクソン・ポロック展

【公式サイト】
 http://pollock100.com/
 http://www.momat.go.jp/Honkan/jackson_pollock_2012/index.html

【会場】東京国立近代美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅
【会期】2012年2月10日(金)~5月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編ではジャクソン・ポロックの画業の始まりからモダンアートへの参入までをご紹介しましたが、今回は絶頂期から晩年までのコーナーをご紹介します。


<第3章 1947-1950年:成熟期 -革新の時->
ジャクソン・ポロックは35歳~38歳に作家としての頂点に辿り着いたようで、それまでピカソを超えるべき壁として苦悶していましたが、「オールオーヴァーのポード絵画」によって、抽象的な形態すらなく、画面構成の中心・部分、前景・後景といったものも解体した新たな作風を生み出しました。しかし、当初は世間の無理解に晒され、「カオスで構造が欠如、テクニックも不在」というように批判されたそうです(無理もないと思いますが) タイム誌ではそれを「カオスだクソったれ」という見出しで紹介すると、ポロックは「カオスなんかじゃないクソったれ」と反論したそうです。ここにはそうした「オールオーヴァーのポード絵画」の作品が並んでいました。

38 ジャクソン・ポロック 「ナンバー11,1949」 ★こちらで観られます
これは1951年の第3回読売アンデパンダン展の際に、日本に初めてやってきたポロック作品2点のうちの1点です。緑、茶、黄色の帯状の線のうねりと、ポーリング(塗料を画面に注ぎこむ技法)とは思えないほど細い線が踊るようにたらし込まれています。絵の前に立つと結構鮮やかで、白の線が軽やかに感じられました。どこが上か下かとか全くわからないほど抽象的で、記号や幾何学的な模様すらないのに心地良いのが不思議です。

47 ジャクソン・ポロック 「無題」
横長で空白の上に3つの黒で描かれたイメージが並ぶ作品です。日本人なら誰しもが観た瞬間に、書道みたい!と思うのではないかと思います。とは言え、文字ではなく抽象的です。そして、3つあるうちの左のイメージの脇には白で修正された跡もありました。単に偶然ではなく形も計算して描いていたのかな?? 他に似た作品がなかったので印象に残りました。

43 ジャクソン・ポロック 「ナンバー7,1950」 ★こちらで観られます
こちらは先ほどの作品と共に日本に初めてやってきた2点のうちの1点です。茶色地に黒の線、白の線、銀色の帯が波のように並んで描かれています。解説によると音楽的とのことでしたが、確かに流れるようで楽譜のようなリズムがあるように感じられました。

42 ジャクソン・ポロック 「インディアンレッドの地の壁画」 ★こちらで観られます
これは絶頂期の最高傑作の1つで、今回の展示までイランのテヘラン現代美術館から門外不出とされてきた作品です。元々はバートラム・ゲラー邸の壁画として製作されたようで、かなり大きめの画面で、茶色地(オールオーヴァー)に黒、白、黄色、銀など様々な色でポーリングされています。複雑に絡み合っていて抽象的な絵ですが、特に白と黒が目を惹きました。ポーリングに躍動感があり画面の大きさから迫力も感じられます。これは必見の作品です。

この近くにあったセゾン現代美術館のナンバー9という作品も素晴らしかったです。

45 ジャクソン・ポロック 「カット・アウト」 ★こちらで観られます
黒、赤、オレンジなどを使いオールオーヴァーのポードで描かれた作品です。他の作品と比べて変わっているのが中心部分で、人を思わせる形に切り取られています。そして、そこにポロックの他の作品(ほぼ下地)が裏に貼り付けられています。これはポロックが具象的な表現をする新たな手法として模索していた「カットアウトシリーズ」という6点のうちの1つだそうで、この人の形をどうするか考えていた最中に自動車事故で亡くなってしまい、妻によって現在の形にされたようです。モダンアートの極みのような中に、原始的な雰囲気の切り抜きがあって、非常に面白い作品でした。ポロックの新しい方向性を模索する様子が伺えます。


<第4章 1951-56年:後期・晩期 -苦悩の中で->
最後は晩年のコーナーです。ポロックは1950年に絶頂期を迎えると、翌年に唐突に方向転換し、1951年から「ブラック・ポーリング」という作風になったようです。ポーリングは続けたようですが、オールオーヴァーな構成は捨てて、黒一色に限定し具象的なイメージを取り戻しました。また、ポーリングもステイニング(染み込み)のようにいくらか変化したらしそうです。人々にはそれらの変化が退行と見えたようですが、ポロックは真の前衛であるため、一度頂点を極めてもそこに留まることをしなかったのではないかとの見方があるようです。しかし結局ブラックポーリングは可能性をものにできず、1952年に終わりを告げます。1953年からは過去の作品と折衷したような作品を描いたようですが、1954年頃になると制作力が顕著に衰え、アトリエに行っても描くことができない事も多かったようです。そして1954年に飲酒運転で自動車事故を起こして44歳で亡くなってしまいました。ここにはそうした苦悩の晩年の作品が並んでいました。

52 ジャクソン・ポロック 「ナンバー11,1951」 ★こちらで観られます
素地を背景に黒(所々茶色)でポーリングしている作品です。白抜きにされているところが人間の姿に見えるような気がします。ここまで色の強い作品が多かったので、この作風の変化は確かに驚きました。成功を捨ててでも前に進む姿勢はまさに前衛芸術家たる由縁でしょうか。

この辺にはブリヂストン美術館の「Number 2, 1951」もありました。改めて観ると、月を描いていると分かる具象性があるように思いました。
 参考記事:なぜ、これが傑作なの? (ブリヂストン美術館)

この辺には黒のポーリングで描かれた版画などもありました。人や顔だと分かるくらい具象的な形をとっています。

64 ジャクソン・ポロック 「ナンバー7,1952」
右を向いて帽子をかぶった人の顔に見える作品です。横にするともう1人の顔が出てくるようで、首をかしげながら観ていましたw 無地に黒で描かれ、上の方には画家の足跡まであります。この絵は画家の凋落と見なされ不評だったそうです。これはこれで良いと思うんですけどね…。

この辺にはブラックポーリングの作品が並んでいました。結構滲んでいて、画面に染み込んでいるのが分かります(これがステイニングかな) 川村記念美術館の作品などもありました。

出口付近には錨を使った作品や死亡した際の新聞記事、アトリエの再現などがありました。

アトリエの再現は写真OKだったのでこんな感じ。
K3300067.jpg
中には塗料や画材なども展示されていました。


ということで、いつも抽象絵画はよく分からないと言っている私でも楽しめる内容となっていました。こうして一気に作品を観てみると分かってくることもあるのが面白いです。 滅多に観ることの出来ない作品もありますので、この貴重な機会をお見逃しなく。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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