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ピラネージ『牢獄』展 【国立西洋美術館】

前回ご紹介した国立西洋美術館の常設を観た際、版画素描展示室で開催されていた「ピラネージ『牢獄』展」も観てきました。

DSC_19350.jpg DSC_19356.jpg

【展覧名】
 ピラネージ『牢獄』展

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/piranesi2012.html#mainClm

【会場】国立西洋美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2012年3月6日(火)~5月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況(平日17時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
平日の閉館近い時間に行ったこともあり、空いていてゆっくり観ることが出来ました。

さて、今回の展示は18世紀イタリアの版画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージの作品の中で、最も有名な連作「牢獄」が並ぶ内容となっています。ピラネージは建築家でもあったそうで、作品に「建築家ピラネージ」とサインするすることも多かったようですが、実際には設計した建築はほとんどないそうです。しかし、彼の作品は美術だけではなく建築や小説、映画にまで影響を与えているらしく、想像をかきたてるような作風となっていました。詳しくは気に入った作品と共に振り返ろうと思います。なお、この美術館の常設(この部屋も含む)はルールを守れば写真撮影可能ですので、今回も撮ってきた写真を使って何点かご紹介しようと思います。
 ※掲載等に問題があったらすぐに削除しますのでお知らせください。


ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第1版):(1)表題紙」
DSC_19359.jpg
こちらは牢獄シリーズの表題紙です。文字の部分には「INVENZIONE」と「CAPRIC」という単語がありますが、前者は芸術家が作り出す構想・創作の事で、後者はカプリッチョ(奇想)を意味しています。この『牢獄』は牢獄の様々な様子が描かれていますが、実は空想の世界で、19世紀にはピラネージがアヘンを吸って朦朧とした中で描いたものと考えられているようです。しかし、最近の研究では当時の美学や考古学、ピラネージの状況などが反映されたものと考えられているようです。

この隣にはほぼ同じような第2版も並んで展示されていました。(中の文字などに違いがあります。) 今回の展示のほとんどの作品は第1版と第2版が対になって展示されていて、大体は第1版が簡素な感じで第2版は陰影が強くて細かい加筆が加わったように観えます。第1版はジョヴァンニ・プシャールが版元になったもので、第2版はピラネージ自身が発行したものらしく、この表紙でも1版はプシャール、2版はピラネージの名前が入っているようでした。また、1版の中でも3回の刷り、2版は4回の刷りがあるそうで、今回は第1版第3刷と第2版第3刷が比較されていました。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第2版):(2)拷問台の上の男」
DSC_19367.jpg
これは2版から加わった作だそうです。ローマ皇帝のネロに殺された人々の名前が書いてあるそうですが、当時険悪な中であったパトロンの姿を重ねているそうです。何かレバーのようなのを引いている人とか、刺の付いた拷問具が観えます…w

この辺にあった解説によると、第2版を発行しようとした動機はいくつか説があるようで、考古学的関心が強まり古代ローマの性格をより強く与えたかったという説、プシャールから独立したての頃だったのであたかも新作として販売しなおしたという説、仲が悪くなったパトロンのアイルランド人貴族チャールモント卿と取り巻きへの非難を込めたという説 などが紹介されていました。

左:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第1版):(6)煙を噴く火」
右:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第2版):(6)煙を噴く火」
DSC_19383.jpg
第1版と第2版はこんな感じで違いがあります。2版のほうが陰影が深くて重厚な印象を受けました。ピラネージは実験的な手法なども使ってコントラストを強調したようです。

左:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第1版):(7)跳橋」
右:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第2版):(7)跳橋」
DSC_19394.jpg DSC_19395.jpg
最初はこの絵を扉絵にしようと考えていたようです。牢獄というよりはRPGのダンジョンみたいな感じw

左:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第1版):(11)貝殻装飾のあるアーチ」
右:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第2版):(11)貝殻装飾のあるアーチ」
DSC_19411.jpg
これはかなりの改変が行われているようでした。階段とかハシゴが増えているし、構図以外は別物みたいです。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第1版):(16)鎖のある迫持台」
DSC_19441.jpg

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『牢獄』(第2版):(16)鎖のある迫持台」
DSC_19443.jpg
上の2点は特に大きな改変のあった作品です。この絵には古代ローマの歴史家の一節などが書かれているそうで、パトロンへの非難や正義の裁きを訴えている要素があるようです。だいぶ物の配置が違っていて印象も別物みたいでした。


ということで、ありそうで無さそうな奇想的な風景の版画集となっていました。ファンタジーの世界のようで物語性があるのでは?と想像してしまいます。第1版と第2版を比べることができるのが非常に興味深いので、この展示だけでも西洋美の常設展を観る価値があると思います。

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