関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

新・北斎展 HOKUSAI UPDATED (感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

前回に引き続き六本木の森アーツセンターギャラリーの「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」についてです。前編は2章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

DSC03233.jpg DSC03234.jpg

【展覧名】
 新・北斎展 HOKUSAI UPDATED

【公式サイト】
 https://hokusai2019.jp/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/hokusai/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2019年1月17日(木)~ 3月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編に引き続き、後編も各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第3章:葛飾北斎期─読本挿絵への傾注>
1~2章でも色々と画号を変えてきた様子を観てきましたが、3章はついに葛飾北斎の号を使った頃のコーナーです。1805年に葛飾北斎を名乗った頃は読本に注力して大きく貢献したようで、曲亭馬琴と共に『新編水滸画伝』や『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』などで読者を引きつけ、読本挿絵の第一人者と認識されていたようです。(前章でご紹介した通りその後の2人は絶交となります) この時期は中国絵画の影響を受けて豪快で大胆な画風となっているようです。ここにはそうした頃の品が並んでいました。

170 葛飾北斎 「吉原遊郭の景」
こちらは45歳頃に手がけた5枚続の錦絵で、吉原の大見世の店の中を描いています。流石に5枚も並ぶと大パノラマの光景で、数え切れないほどの遊女たちが描かれていて非常に賑わいを感じます。ここは最上級の遊郭らしいのでその豪華さを破格の画面で表現したのかな。料理を用意したり、化粧をしたり、女性たちも生き生きとしていて人物画としても面白い作品でした。

177 葛飾北斎 「在原業平」
こちらは座っている在原業平を描いた作品です。衣の皺を太めの輪郭で描いていて、一筆書きのような軽やかさが感じられます。この頃になると筆の迷いが無いような描写となっていて、達人の域に入っていることを感じさせました。

232 葛飾北斎 「『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』前編」
こちらは曲亭馬琴とのコンビで手がけた長編の読本です。中身は冒険ものらしく、武士が弓を放って猿?を退治している場面が展示されています。何かが炸裂したような表現もあって、現代の漫画に通じる手法を既に使っているのに驚きます。動きがあって迫力もあるので、人気になったのも当然と思えるような作品でした。

この近くには2人の代表作でもある水滸伝などもありました。こちらも迫力満点の作品です。

215 葛飾北斎 「猿図」
こちらは烏帽子を被って赤い衣を着た猿が片足で立っている様子を描いた肉筆画です。手には紙垂(稲妻型の紙のついた棒)を持っていて、擬人化されているようにも思えます。薄い墨でフワッとした毛並みを出しているのがさすがです。猿の顔はちょっと呆けて見えますが、この猿は日吉山王権現の神徒なのだとか。肉筆においても表現の幅が広がっているように思えました。

224 葛飾北斎 「鯉亀図」
こちらは水中の鯉と亀が描かれた肉筆画です。水面のゆらぎを微妙な濃淡で表現していて、遠近感や透明感を出しつつ鯉たちの動きも感じるという見事な表現となっています。これは卓越した技術と観察眼が光る作品でした。

解説によると、この頃の北斎は席画(宴会とかで即興で描く絵)でも有名だったらしく、将軍に招かれてパフォーマンスをしたようです。足の裏に朱を塗った鶏を紙の上に歩かせて、竜田川のモミジでござい と言ったというエピソードを紹介していました。将軍相手なのに大胆過ぎて驚きますねw


<第4章:戴斗期─『北斎漫画』の誕生>
続いては戴斗を名乗っていた時期です。1810年~1819年まで戴斗の号を用いていて、この時期は読本から遠ざかり様々な絵手本を発表しています。特に『北斎漫画』は死後の明治時代まで15版も作られ、日本のみならず海外にも大きな影響を与えました。こうした絵手本は自身の門下や私淑(直接の教えを受けていないが、敬意を持って学ぶこと)する者たちに自らの画風を広めようと考えて作ったようです。また、この時期にも数少ないものの版画や肉筆も手がけていたようで、そうした作品も含めて展示されていました。

249 葛飾北斎 「茶筅売り図」
こちらは月の下を歩く茶筅売りを描いた作品です。長い柄の先にいくつもの茶筅が刺さっているものを持っていて、顔を上げて歩いている後ろ姿となっています。粗いタッチとなっていますが月光に照らされてしんみりとした叙情性が感じられました。

この後は北斎漫画がずらりと並んでいました。初編から15編まであって、およそ3900の図があると言われています。各編ごとに特色もあったりします。
 参考記事:
  浦上コレクション 北斎漫画:驚異の眼、驚異の筆 (うらわ美術館)
  北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃 (国立西洋美術館)

北斎漫画以外にも絵手本が多数並んでいて、画風も一様ではなく様々でした。これだけでも展覧会が開けるくらいの充実した内容ですw

次の5章との間には休憩スペースがあり、そこでは最も有名な「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版画の摺り工程について展示していました。8回の摺りでそれぞれどの部分を摺っているのかが解説されているので分かりやすくて興味深い企画でした。


<第5章:為一期─北斎を象徴する時代>
続いては北斎の中でも最も有名な作品が作られた時期のコーナーです。1820年(61歳)の頃から為一(いいつ)という号を使い始め、為一期は大きく前期と後期に分けられるようです。前期は1820年~30年頃で、狂歌摺物の連作などを手がけています。一方、後期は1830~34年という短い期間に「富嶽三十六景」や「諸国瀧廻り」といった代表作を制作しました。この時期には風景以外にも花鳥や古典、武者絵、幽霊画など様々な作品を手がけていて、ここには北斎を代表するような作品が並んでいました。

まずは「琉球八景」が並んでいました。北斎は琉球に行ったことはなく想像で描いているので雪が降ってる様子なんかも描かれているシリーズです。 そしてその後は「富嶽三十六景」がならび、「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」、「山下白雨」といった有名作が目白押しです。特に今回の展示の品は発色が良く「ベロ藍」と呼ばれた青が鮮やかでした。(この辺は何度もご紹介しているので詳しくは参考記事を御覧ください) 他にも「諸国瀧廻り」や「諸国名橋奇覧」などのシリーズもあり、これだけの傑作の数々を僅かな期間で制作したのは奇跡としか思えないほどです。
 参考記事:
  北斎とリヴィエール 三十六景の競演 (ニューオータニ美術館)
  ホノルル美術館所蔵「北斎展」 (三井記念美術館)

415 葛飾北斎 「工芸職人用下絵集」
こちらは根付や目貫、煙草入れの表金具などの下絵を集めた画集です。2冊の348図も収められているらしくその数にも驚きますが、とにかく緻密で細かい! 題材も物語・風俗・動植物など幅広いので工芸用の絵手本みたいな感じです。職人たちはこれを写し取って図案として使うことができたのだとか。絵に飽き足らず工芸にも影響を与えるとは流石ですねw

383 葛飾北斎 「百物語 さらやしき」
この写真は他の展示で撮ってきたものです。この展示では撮影禁止です。
 参考記事:博物館できもだめし-妖怪、化け物 大集合- (東京国立博物館 本館)
DSC_18056.jpg
こちらも有名作かな。恐ろしくも首が皿になっている辺りに機知を感じさせます。
この近くにはもっと恐ろしい「百物語 笑ひはんにや」もありました。子供が観たらトラウマになるレベルw

414 葛飾北斎 「六歌仙図」
こちらは肉筆画で、縦長に並んだ六歌仙たちを描いた掛け軸です。上から順に大伴黒主、僧正遍昭、小野小町、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、の順で並んでいるのですが、それぞれの向きやポーズが異なっていて、正面を向いている大伴黒主から順に回転しながら流れるような配置となっています。絵も然ることながら発想の面白さが北斎の魅力じゃないかな。これもユーモア溢れる作品でした。


<第6章:画狂老人卍期─さらなる画技への希求>
最後は晩年のコーナーです。1834年に富士図を題材として「富嶽百景」を出版し、この巻末で「画狂老人卍」の号を用いてさらなる画技の向上を表明しています。最晩年には版画から遠ざかり、肉筆画に力を注いだようで、風俗画はほとんど描かず動物・植物・宗教などを題材にしていたようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

456 葛飾北斎 「狐狸図」
こちらは2幅対の肉筆掛け軸で、左幅は囲炉裏の側で坊主の姿をした狸、右幅は白蔵主という僧に化けた狐が罠に仕掛けられたネズミを気にしている様子が描かれています。色が濃いめとなっていますが、立ち上る煙の表現などは繊細です。いずれも擬人化されているわけですが、人間そのもののような感情表現が面白かったです。

459 葛飾北斎 「富士越龍図」 ★こちらで観られます
こちらは90歳で世を去る3ヶ月前に描かれた作品で、肉筆では絶筆に近い画業70年の最後を迎えた貴重な掛け軸です。白い縦長の富士と、その後ろに立ち昇る黒い雲の中に昇り龍が墨の濃淡で描かれています。爪を広げて仰け反るような龍は躍動感があり、黒い隅の中で白い姿が目を引きました。晩年まで恐るべし画力を発揮していたのがよく分かる作品です。

455 葛飾北斎 「向日葵図」 ★こちらで観られます
こちらは竹に支えられたヒマワリを描いた肉筆画です。まっすぐ伸びて縦長の構図となっていて、題材共々珍しい作品だと思います。ややピンクがかったヒマワリの花は可憐な印象で、葉っぱの緑は鮮やかでした。どこか人間の立ち姿のようにも思えるんですよね…

462 葛飾北斎 「弘法大師修法図」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、西新井大師に伝わる大型の絵馬です。左に金棒を持った筋肉隆々の鬼が迫り、右では巻物を持った弘法大師が祈る様子が描かれています。弘法大師の後ろには犬の姿があり、木に巻き付くように身を捩らせ鬼に唸っているように見えます。解説によると、これは弘法大師が西新井で流行の疫病を鎮めた逸話を元にしているようで、この鬼は病魔かな。暗闇に赤い肌が浮かび上がって非常に迫力があります。ポーズも独特で一層に恐ろしい雰囲気を出していました。
また、先日テレビで紹介されていたのですが、木に生えたキノコは木に寄生して朽ちさせる種類らしいので、そういった細かい部分まで幅広い知識を活かしているようでした。


ということで、後半は有名作や傑作が勢揃いといった圧巻の内容となっていました。正直、北斎の展示はしょっちゅう観ているので混雑しているなら観なくても良いかな?なんて思って会期終盤まで行かなかった訳ですが、予想以上の質・量に驚かされました。特に最後のあたりの肉筆画は見事です。もう会期末となっていますので、気になる方はすぐにでもどうぞ。




記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



新・北斎展 HOKUSAI UPDATED (感想前編)【森アーツセンターギャラリー】

10日ほど前の日曜日に六本木の森アーツセンターギャラリーで「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」を観てきました。非常に点数が多く見どころもたっぷりでしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC03535.jpg

【展覧名】
 新・北斎展 HOKUSAI UPDATED

【公式サイト】
 https://hokusai2019.jp/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/hokusai/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2019年1月17日(木)~ 3月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
非常に混んでいて下のエレベーター待ちで30分、会場の前で10分ほど並びました。また、中に入ってもどこも行列しているので観るのに3時間以上かかりました。これから見る予定の方は一層に混んでいると思われますので十分に時間を取ってスケジュールすることをオススメします。

さて、この展示は日本で最も有名な絵師である葛飾北斎を時系列的に6期に分けて全480点(入れ替えあり)の大ボリュームで紹介する内容となっています。葛飾北斎というのは46~50歳頃の画号にすぎず 画風も画号もコロコロ変えた(50くらいある)のですが、今回はその変遷の様子などもよく分かるようになっています。また、版画の浮世絵だけでなく直筆の肉筆画も多いのが特徴で、これだけ揃いの良い展示は久々の機会だと思います。詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章:春朗期─デビュー期の多彩な作品>
まずはデビュー期のコーナーです。後に葛飾北斎となる幼名:時太郎は1760年に江戸に生まれ、6歳の頃から絵を描き始め12歳のときには貸本屋で働くようになり、14歳で版木彫りの仕事をするようになりました。そして19歳の頃に勝川春章に入門し、勝川春朗の号を授けられてデビューしました。その後15年ほど様々な題材を描いていましたが、1792年に師が没すると叢春朗(くさむらしゅんろう)を用いて画風も変化していきます。この章ではそうした初期の作品が並んでいました。
 参考記事:すみだ北斎美術館の案内 (常設 2017年12月)

5 葛飾北斎 「五代目市川団十郎 あげまきのすけ六」
こちらは役者絵で、傘を持った五代目市川団十郎を描いた作品です。色は淡く輪郭がよく分かるのですが、筆致は細かいものの まだぎこちなさもあって、発展途上の頃と言った感じでしょうか。師匠の勝川春章の作風にも似ていて影響の強さが見て取れます。「春朗画」の印もあって初期作品の画風がよく分かる作品でした。

この辺は同様の色が薄めの版画作品が並んでいました。題材は様々で、美人画や風俗画なんかもあります。

16 葛飾北斎 「花くらべ弥生の雛形」
こちらは3人の遊女を描いた作品で、1人はまだ幼くデビュー前の少女です。2人は等身がスラリとして艶やかな雰囲気があり、輪郭もだいぶ軽やかになっていて流麗な印象を受けます。解説によると、これは鳥居清長の作風から影響を受けているようです。確かに似ていて他の流派からも積極的に学んでいた様子が伺えました。(それが原因で破門になったりしたわけですが…w) ちなみに勝川派の中堅になっても生活は苦しかったようで、唐辛子や暦を売る副業で生活していたなんてエピソードも紹介されていました。

55 葛飾北斎 「鎌倉勝景図巻」
こちらは初公開の巻物の作品で、現在の横浜の磯子あたりから江ノ島にかけての風景を地名と俳句を添えて9mに渡って描いています。緻密で落ち着いた画風となっていて、大仏や建長寺といった現代でも人気の名所も見受けられるのが面白いかな。この作品では叢春朗となっていて、勝川派と袂別した後の作品のようでした。なお、勝川派にいた頃、兄弟子に絵の拙さについて からかわれて絵を破り捨てられたことがあったそうで、それに奮起したことで絵が上達したと後に語っていたようです。兄弟子との不仲も勝川派を離脱した一因のようです…。

この近くのケースには黄表紙がいくつか並んでいました。


<第2章:宗理期─宗理様式の展開>
続いては主に「宗理」を名乗っていた時期のコーナーです。1794年に勝川派から離脱した後、琳派の宗理の名を受け継いで画風が一気に変わったようです。この時期は浮世絵制作は減り、摺物へと軸足を移していて肉筆も多く手がけて様々な描法を用いているようです。特に瓜実顔の女性は「宗理風」と呼ばれるスタイルとしてこの時期を代表する画風となっています。そして1798年には宗理の画号を門人の宗二に譲り「北斎辰正」へと改号、さらに「画狂人北斎」へと次々に号を変えています。宗理様式の作画は1805年ころまで続いたそうで、この時期には西洋風の画風も取り込んだりしたようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

79 葛飾北斎 「ぎやうとくしほはまよりのぼとのひかたをのぞむ」
こちらは海岸を描いた作品で、岩や家が描かれています。遠近感があり陰影がつけられているなど、西洋の技法を取り入れた風景画に見えるかな。水平線が低めで広々とした雰囲気が感じられ、これまでの作品とはだいぶ異なる画風となっているのがよく分かりました。
他にも同様に西洋技法の遠近法が使われた作品がいくつかあり、緻密で写実的なものもあります。

この辺は読本(よみほん)が並んでいました。曲亭馬琴(北斎と袂別後に南総里見八犬伝を書いた滝沢馬琴)とのコンビで人気を博していたのですが、曲亭馬琴の指示に従わない挿絵を描くことがしばしばあったようで、ある時 草履を咥えた人物を描くようにとの指示を鼻で笑って取り合わず、それが原因で絶交になったというエピソードがあります。タイプの違う天才同士ではこうなるのも致し方無いのかもw 北斎は破天荒エピソードだらけですw

117 葛飾北斎 「玉巵弾琴図」
こちらは2幅対の肉筆掛け軸で、右幅には玉巵という西王母(不老長寿の仙女)の娘が描かれ、左幅には玉巵の愛用の琴を持った雲龍が描かれています。この玉巵は瓜実顔をしていて、典型的な宗理様式となっているようです。一方の龍は琴を抱きかかえるようにしながら厳しい表情をしていて、周りに飛び散った墨と共に迫力が感じられました。中々見事な肉筆です。

この辺は肉筆掛け軸がずらりと並んでいました。これだけ集めるとは北斎展の決定版みたいな感じ。

118 葛飾北斎 「美人愛猫図」
こちらも肉筆の掛け軸で、猫を抱えた着物の女性が描かれています。真っ白な肌をしていて色っぽく、8等身くらいあるすらっとしたプロポーションも優美です。この女性も瓜実顔の富士額で、ちょっと俯いているのも宗理様式の典型のようです。首の辺りには中の赤い衣が出ていて、白い肌と共に艶やかなアクセントとなっていました。

その後は注文に応じて作られる摺物のコーナーとなっていました。津和野藩伝来の摺物が全点公開されるのは今回が初の機会だそうです。ポストカードくらいからノートサイズまで大きさも様々で、絵暦なんかが多いかな。小松引きなど季節を感じさせる主題などを描いていました。

その先の休憩スペースでは今回の展示の核となっている永田コレクションの永田生慈 氏に関する映像が流れていました。北斎研究の第一人者で、太田記念美術館の副館長などもされていた方です。晩年に島根県立美術館に多くのコレクションを寄贈し、惜しくも去年(2018年)に亡くなってしまいました。これだけ北斎について詳しく知ることができるのは永田氏のおかげですね。

葛飾北斎 「しん板くミあけとうろふやしんミセのづ」
20190310 173756
こちらは休憩スペースにあった撮影可能な複製品。組上絵というパーツを組み立てて作る作品です。かなり出来が良いのは計算しつくされている為かな。北斎はこうした組上絵も10種類ほど手がけていたようです。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。非常に混んでいて観るのが大変でしたが、永田コレクションを中心とした貴重な作品の数々を観ることができました。時系列になっているのも理解しやすいし、北斎を詳しく知る良い機会だと思います。後編は特に有名な浮世絵や貴重な肉筆画などもありましたので次回は残りの章をご紹介の予定です。

 → 後編はこちら


記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



六本木クロッシング2019展:つないでみる 【森美術館】

今日は写真多めです。3週間ほど前の金曜日の夜に森美術館で「森美術館15周年記念展 六本木クロッシング2019展:つないでみる 日本の現代アートの今を見せたい!」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

DSC03236.jpg

【展覧名】
 森美術館15周年記念展
 六本木クロッシング2019展:つないでみる
 日本の現代アートの今を見せたい! 

【公式サイト】
 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/roppongicrossing2019/index.html

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年2月9日(土)~ 5月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
平日の夜ということもあって快適に鑑賞することができました。この時間って外国人の方が多いくらいかも

さて、この展示は2004年から3年毎に行われている「六本木クロッシング」の第6回目で、今回は1970~80年代生まれを中心とした日本のアーティスト25組を紹介する内容となっていました。先述の通り撮影可能となっていましたので、詳しくは写真を使ってご紹介していこうと思います。

飯川雄大 「デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―」
DSC03241.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
入口にいた大きなピンクの猫!w この作品を写真に撮ろうとするとどうやっても全体像が撮れないようになっているようで、真実や全体を俯瞰することの難しさや、写真で本当の状況や感動を伝える無意味さを提示しているとのことです。入口でぬっと顔を出しているのが可愛くて、みんな記念撮影に夢中でしたが割とシリアスなテーマですw

土井樹+小川浩平+池上高志+石黒浩×ジュスティーヌ・エマール 「ソウル・シフト」
DSC03273_201903182338312e0.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは池上高志 氏や石黒浩 氏といったロボット・人工生命の研究者との「生命とは何か」をテーマとした作品。オルタ1とオルタ2という2体のロボットが会話するような映像で、SFの世界が現実になったような面白さがありました。そのうち、人権はどこまで認めるかとか哲学の話になるかもしれませんね。

青野文昭 「なおす・復元-沖縄の村はずれで破棄された車の復元-『GUN』2018」
DSC03279.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
破棄された自動車を使った作品。途中で薄く消えかかって見えているのは途中から絵になっているためです。どこまでが実体か近寄っても中々判別が難しいのが面白い。

青野文昭 「なおす・代用・合体・連置-ベンツの復元から-東京/宮城(奥松島・里浜貝塚の傍らに埋まる車より)2018」
DSC03284.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは貝塚に埋まっていたという車。歴史に埋もれる点では貝塚と似たようなものかも。こちらも家具と一体化するような修復となっていて、何度観ても不思議でした。

裏側はこんな感じ
DSC03285.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
ご丁寧にハンドルを持ったドライバーまでいますw 他にも2人ほど埋まっているように描かれていて、こちらもシュールな感じでした。

山内祥太 「ロキ、黄昏」
DSC03312_201903182338379b9.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは北欧神話のロキの「城壁作り」の物語をクレイアニメーションで作ったという作品。この半球のスクリーンが世界全体を象徴しているのだとか。手間のかかるクレイアニメーションが15分近くも続くのにも驚き。2ヶ月半かけて制作されているとのことでした。

林千歩 「人工的な恋人と本当の愛 -Artificial Lover & True Love-」
DSC03321.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは部屋全体が作品のようになっていました。ロボットが切ない歌を歌って愛を語らう2人が映されています。近い将来にこういうことも本当に起こり得るのではないか?と思いながら観ていました。最近は人間との境目がどんどん無くなってきてる感じ。

目 「景体」
DSC03336.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
目というのは荒神明香 氏・南川憲二 氏・増井宏文 氏を中心とするチームらしく、部屋に巨大な海のような作品を展示していました。写真だけみるとうねる海が目の間に迫ってる感じw スケールと発想に驚く作品でした。

磯谷博史 「母親の子、祖母の孫」
DSC03342.jpg DSC03343_2019031823411451a.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは美術館の柱に2600mもの真鍮製のチェーンを巻き付けた作品。右の写真はそのアップです。チェーンの一部は作者の祖母と母親のネックレスによって繋がれているようですが、この中から探すのはかなり至難で諦めましたw 繋がりや時間の流れなどを表現しているようでした。

花岡伸宏 「手」
DSC03359_20190318234116ebd.jpg DSC03360_20190318234117abc.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは彫刻作品で、右は一部をアップにしたものです。手が柱から生えているようなちょっと不気味な感じだけど、妙な艶めかしさも感じられました。意図はちょっと分かりませんでしたが、近くには同様に謎の人体像などが並んでいました。

毒山凡太朗 「君之代-斉唱-」
DSC03374.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらはドキュメンタリーのような映像作品で、台湾の老人たちに日本統治時代の様子を語ってもらうというものです。会場にちょっとたどたどしい日本語で蛍の光が流れていると思ったら、このような映像となっていました。統治時代の悪い部分もある一方、割と懐かしんでいる様子なんかも観られて、貴重なインタビューに思えました。彼らも終戦によって良くも悪くも一気に状況が変わったようです。

アンリアレイジ 「A LIVE UN LIVE」
DSC03394.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらはフラッシュ撮影可能な作品。光が当たると色鮮やかになる仕掛けで、パウチモーターと分光素材で出来ているそうです。まずこれは通常時。マネキンが4つあるのは四季を表しているとのことですが、この状態だと全部同じに見えます。

アンリアレイジ 「A LIVE UN LIVE」
DSC03393_20190318234120877.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
フラッシュを当てるとこんな感じ。それぞれ異なる色合いとなっていて、近未来的な斬新さとなっていました。中々カッコいいのでイベントとかで流行るかも。

竹川宣彰 「猫オリンピック:開会式」
DSC03395.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
今回特に面白かったのがこちら。猫のオリンピックをテーマにした作品群で、スタジアムにはぎっしり猫が集まっています。

竹川宣彰 「猫オリンピック:開会式」
DSC03399_201903182341252ae.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
アップにするとこんな感じ。陶器の猫が1300弾き以上も並んでいます。みんな反時計回りに並んでいて渦巻くような圧巻の光景です。可愛らしいですが、この作品は愛猫のトラジロウが交通事故で亡くなったのがきっかけで作られたそうで、この中にはトラジロウも含まれているのだとか。

竹川宣彰 「猫オリンピックのポスター」
DSC03409.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
ポスターだってあります。 ちょっと落書きみたいに描かれているのがユルくて可愛いです。 猫の新体操はじゃれているようにしか見えないw

この近くにはマイケル・ジャクソンが赤羽の児童施設を訪れたエピソードをテーマにした作品なんかもありました。そこは撮影禁止なのが残念。

津田道子 「王様は他人を記録するが」
DSC03449.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは『鏡の国のアリス』をモチーフにした作品で、市松模様の床はチェス盤に見立てています。カメラがキング、モニタがクイーン、フレームがナイト、壁がルーク、鏡がポーン(アリス)だそうで、実際にここを歩くこともできて鏡やモニタに自分の姿が映されます。上にあるのは小説に出てくる詩を逆さまにくり抜いたものでそれも壁に逆さに写っているようでした。鏡が無いものもあったりして、デジタル技術を使ったミラーハウス的な面白さがありました。

ヒスロム 「いってかえって-浮力4」
DSC03478_201903182347472ee.jpg
cc1.png
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは加藤至 氏、星野文紀 氏、吉田祐 氏の三人のグループの作品。これは建築物の巨大な貯水池にゴムボートで侵入したという体験を題材としているそうで、その場に木材や建築資材を放置したようです。映像もあってその時の記録のようでした。あまり褒められた行動じゃないけど異世界的な面白さがあって見入ってしまいましたw


ということで、今回も個性的な発想の作品が並んでいました。いずれもまだまだ活躍が予想されるアーティストたちなので、まさに現在進行系のアートを体験できる展示だと思います。現代アートがお好きな方にオススメの展示です。




おまけ:
今回のMOMコレクションは1点のみでしたが、非常に面白かったので合わせてご紹介。

【展覧名】
 MAMコレクション009 米谷 健+ジュリア

【公式サイト】
 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamcollection009/index.html

【会期】2019年2月9日(土)~ 5月26日(日)


米谷 健+ジュリア 「生きものの記録」
DSC03496_2019031823474832d.jpg
こちらは暗闇の部屋の中で光る巨大なアリ型のインスタレーションです。これは大地掘り起こすと緑のアリが現れて世界を踏み潰し破壊するというアボリジニの神話「緑アリの教え」をテーマにしているそうですが、1970年代にアボリジニの反対を押し切ってウラン鉱山を開発したそうで、この作品には反核の意味も込められているのだとか。そう言われるとチェレンコフ光を表しているように思えてきますね…
この展示は六本木クロッシングとセットで観られるので、こちらも合わせて楽しめると思います。



記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史 【埼玉近代美術館】

前回ご紹介した常設展を観る前に埼玉近代美術館で「インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史」を観てきました。

DSC03506_201903180012285e1.jpg DSC03517.jpg

【展覧名】
 インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史

【公式サイト】
 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=386

【会場】埼玉近代美術館
【最寄】北浦和駅

【会期】2019年2月2日 (土) ~ 3月24日 (日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
会期末が近いこともあって結構混んでいて場所によっては人だかりができていました。

さて、この展示は20世紀以降の国内外の建築において完成に至らなかった設計・計画を取り上げ、それらを「インポッシブル・アーキテクチャー」と称して紹介するものです。わざわざインポッシブルに打ち消し線が入っているのですが、これは「インポッシブル」が不可能を意味するのではなく、逆説的に建築の極限の可能性や潜在力を探るという前向きな意味として使っている為のようです。40人の建築家・美術家の図案や模型などが並んでいましたので、詳しくは気に入った作品と共に振り返ってみようと思います。

ウラジーミル・タトリン 「『第3インターナショナル記念塔』(教育人民委員会造形芸術部門、1920)」
こちらは高さ400mにも及ぶ螺旋と斜塔を組み合わせたような記念塔で、模型が置かれていました。円筒形・三角錐・円柱が入れ子のように組み合わされているのですが、それぞれ
  円筒…1年で1周
 三角錐…1ヶ月で1周
  円柱…1日で1周
のペースで回転する仕掛けも考えられていたようです。近くには長倉威彦 氏による実現したらこうなっていたというバーチャル映像もあり、かなりリアルに表されていました。ロシア・アヴァンギャルドなんかを思い起こすような幾何学性が圧倒的かつちょっと独特の怖さがありますw 見るからに難易度の高そうな建物だけにこんな巨大な塔が出来ていたら世界的な観光地になってたと思えました。

この辺にはマレーヴィチによるシュプレマティズムを建築にしたような作品もありました。
 参考記事:ロシアの夢 1917-1937 革命から生活へ-ロシア・アヴァンギャルドのデザイン (埼玉県立近代美術館)

ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ 「「摩天楼」『曙光』第4号」
こちらはガラス張りの高層ビルで、20階建ての高さ80mの高層住宅として設計したものです。反射の効果などを計算して単調さを避ける工夫をしているそうで、上から見ると複雑な星型のような形をしています。その斬新さ故にコンペで落選してしまったそうで、これは実現してたら相当に時代を先取りした建物だったのではないかと思えました。

川喜田煉七郎  「霊楽堂(ある音楽礼拝堂)」
こちらは円形が連なり 周りも卵型の有形的な形状の区分けとなっている聖堂の草案や図面、模型などです。作者の川喜田煉七郎は学校(現在の東京工業大学)の教育が構造学に重きが置かれているのに反発して、傾倒していた山田耕筰が提唱する霊楽堂を構想したのがこの建物のようです。滑らかで音楽的なリズムのあるデザインとなっていて、内部のスケッチはゴシック聖堂と近未来を融合したような雰囲気がありました。これも1926年の作とは思えないほど未来感があって面白い作品でした。
川喜田煉七郎は他にもウクライナの劇場の応募案などもありました。

前川國男 「東京帝室博物館建築設計図案懸賞募集(前川國男案)」
こちらは現在の東京国立博物館の案として作られた設計です。前川國男の師匠であるル・コルビュジエの設計に似た近代的な印象を受けるかな。しかしこの建物の要件には日本風というのがあったようで、一見するとそれに沿っているようには思えません。現在のトーハクの本館は帝冠様式で分かりやすい和風っぽさがあるので、コンペに負けたのも分かる気がします。しかし、前川國男は帝冠様式のような表向きの和風ではなく、日本的とは何かを問うような建築を目指したようで、シンプルで幾何学的なこの案を落選覚悟であえて応募したようです。ピロティとかル・コルビュジエ風じゃないか?と思う部分もありますが、和室の幾何学性なんかを考えると この建物の美意識は確かに日本的でもあるように思えました。

黒川紀章 「東京計画1961-Helix 計画」
こちらはポスターにもなっている二重螺旋構造の建物で、巨大な模型や この建物からインスパイアされた映像作品などがありました。東京湾の都市計画として考案されたもので、とてつもなく大きな居住空間です。メタボリズムの思想で作られていて、DNAの螺旋構造に着想を得ているようでした。SFの世界のような豊かな発想で、スケールの大きな計画です。
 参考記事:メタボリズムの未来都市展 (森美術館)

この辺には同じく黒川紀章の「農村都市計画」の模型もありました。農村に近未来都市が現れたような斬新さです。

長倉威彦  「マイケル・ウェブ ドライブ・イン・ハウジング」
こちらは建築と車が一体化するようなコンセプトの映像作品です。車をエレベーターに乗せて台車を取り外し、マンションの部屋の中に収納するような感じかな。車もPCのマウスみたいな形をしていてちょっと変わっています。こちらはユニットが動いたり変形することなどを提案した作品らしく、私には非常に面白いアイディアに思えました。車が自動運転になって電気自動車が電池代わりになったらこういう未来があるかもしれない…と思えました。

この近くにはソットサスのレトロ・フューチャー感あるドローイングなどもありました。
 参考記事:倉俣史朗とエットレ・ソットサス (21_21 DESIGN SIGHT)

磯崎新 「東京都新都庁舎計画」
こちらもメタボリズム関連のビッグネームによる作品で、模型と平面図で都庁の計画が並んでいます。当時の都庁の要件は超高層の2棟だったらしいので、現在の都庁は分かりやすくそれを満たしているわけですが、ここでは低層の計画となっています(一応、23階建てらしい) 見た目はフジテレビの社屋に似ているかな。建物の上部に球体のホールのようなものがあります。また、建物の中央部分は高さ90m、長さ300mにも及ぶ吹き抜けとなっていて、それを区切りと思えば2棟にも見えました。こちらも発想のスケールが常人とは違って驚きでした。

この近くには安藤忠雄の「中之島プロジェクトⅡ-アーバンエッグ」の模型や平面図などもありました。
 参考記事:安藤忠雄展―挑戦― (国立新美術館)

荒川修作+マドリン・ギンズ 「問われているプロセス/天命反転の橋」 ★こちらで観られます 1
こちらは長さ13mにも及ぶ模型が展示室に置かれていました。実物は140mになるフランスの橋の計画らしく、橋の途中に21の装置が並び「光の身体推量」とか「惑星の叫び」といった名前がつけられています。これらは障害物のようになっていて、くぐったり斜めに避けて歩く仕掛けのようです。中を見ると橋というよりはアスレチックのような複雑な構造で、サスケの障害物レースみたいな…w 解説によると、要請された行いの必然性に従うという拘束的な空間の体験をもたらすもので、それがポストユートピア時代の人間としての私達を形成し直すことになると解釈できるのではないかとのことでした。

藤本壮介 「ベトンハラ・ウォーターフロントセンター設計競技1等案」 ★こちらで観られます 2
こちらは螺旋が無数に渦巻く形の商業施設で、セルビアのコンペで1等を獲得したそうです。洗練されたフォルムが近未来的で、ガラス張りとなっているのが明るい印象となっています。これは何故インポッシブルなのか分かりませんが、実現したらお洒落スポットになること間違いなしですw

会田誠 「東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図」
山口晃 「都庁本案圖」
こちらはセットで展示されていて、原案を会田誠 氏が作って山口晃 氏が油彩・水彩で絵画化した感じです。都庁がこうだったら良かったのではないかとのことで、天守閣の石垣部分がビルの窓になっているなどパロディ的な雰囲気で、落書きっぽい楽しさがありますw それを日本画風にした山口晃 氏の作品は歴史的な絵みたいな感じも出ていたり、予算があれば可能みたいなコメントもあって、2人とも皮肉が効いているように思えました。
 参考記事:会田誠展 天才でごめんなさい (森美術館)

ザハ・ハディド・アーキテクツ+設計JV 「新国立競技場」
こちらは記憶に新しいオリンピックの新国立競技場の案で、予算面が合わないということでインポッシブルの仲間入りとなってしまいました。自転車のヘルメットみたいな流線型がカッコいいし、屋根の開閉のギミックも面白いので個人的にはこれでも良かったと思うんですけどね。

この辺りは予算が合わなかった作品が並び、会田誠 氏の予算があれば可能という皮肉がジワジワきますw

マーク・フォスター・ゲージ 「ヘルシンキ・グッゲンハイム美術館」 ★こちらで観られます 4
今回のポスターにもなっている作品で、これも財政上の理由で計画が破棄されてインポッシブルとなりました。これも実現したらこうだったという映像があり、遠くから観るとロボットが立っているような門のような不思議な形をしていますが近づくと昆虫やトカゲが組み合わさっているような生物の集合体のごとき彫刻が施されています。ちょっと不気味でこれはヤバイw 同じく102階建ての「西57丁目のタワー」という作品の映像ではビルに羽が生えたり聖堂のような彫刻が施されたビルが映されていました。FFのボスでも出てきそうなタワーですw


ということで、実現できたはずなのに…というものも含めて驚きの計画が目白押しとなっていました。各建築家の設計思想や実験性が強く出ていて、実現した建物よりも個性的な建物ばかりだと思います。この記事を書いている時点で残り1週間しかありませんが、建築好きは是非観ておきたい企画が光る展示でした。



記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



2019 MOMASコレクション 第4期 【埼玉近代美術館】

先週の日曜日に北浦和の埼玉近代美術館で特別展を観てきました。その際に常設も観てきましたので、先にそちらをご紹介しようと思います。今回は「2019 MOMASコレクション 第4期」というタイトルとなっていました。

DSC03510.jpg

【展覧名】
 2019 MOMASコレクション 第4期

【公式サイト】
 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=378

【会場】埼玉近代美術館
【最寄】北浦和駅

【会期】2019年1月12日(土)~4月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は常設展で、埼玉県立近代美術館では年4回テーマを決めて入れ替えていて、今回は2018年度最後の4期となってきました。大きく分けて3つの章から構成されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<瑛九と光春―イメージの版/層>
まずはこの埼玉県立近代美術館がある浦和に馴染み深い瑛九と、瑛九を研究した山田光春に関するコーナーです。瑛九は油彩、フォト・デッサン、コラージュなど、山田光春はガラス絵、素描などが並んでいました。
 参考リンク:
  生誕100年記念 瑛九展-夢に託して (うらわ美術館)
  生誕100年記念 瑛九展 (埼玉県立近代美術館)

瑛九 「女性像」
こちらは椅子に肘をかけて座る女性を描いた作品で、少々不機嫌そうに見える表情をしているかな。やや単純化しているものの写実的に描かれていて、落ち着いた色彩となっています。まだ具象の時代のものかな? これを観ても瑛九だとは分からないほど堅実な感じの作風でした。

この辺には瑛九の写真作品がいくつかありました。瑛九にはマン・レイのレイヨグラフのような写真とは思えないような作品もあります。

瑛九 「作品(69)」
こちらはレースのようなものをフォトデッサンして印画紙に彩色した作品です。不思議な色合いとなっていて、滲みを活かして抽象画そのものと言った感じに見えます。具象と抽象の狭間のような自由さが面白い作品でした。

この辺には山田光春の作品もいくつかありました。

瑛九 「ともだち」
こちらは「印象派からやり直す」と宣言していた頃の作品です。屋内のテーブルで向き合っている2人の男性が描かれ、背景には女性らしき姿もあります。かなり粗目のタッチで描いていてちょっと落書きチックな描写に見えるかな。油彩だけど下書き線らしきものも残っていて、水彩のような色合いとなっていました。またちょっと具象に戻ったような感じ。

瑛九 「青の中の黄色い丸」
薄い青の背景に無数の円や楕円が重なり合うように描かれている抽象画で、瑛九と言えば真っ先に思い浮かぶ作風はこれじゃないかな。オレンジ、黄色、青、緑など色とりどりで、泡や星なんかを彷彿とさせます。抽象画だけど有機的な印象を受け、色の取り合わせやリズムを直感的に楽しく感じる作品です。

瑛九 「手」
こちらは型紙を用いて吹付け等の技法で制作した作品で、手の形が大きく描かれ その中に女性の人影が見えています。青い色が無数に重なりあって温かみを感じるかな。近くには制作に使われた型紙も展示されていて、制作工程を創造しながら観ると一層面白く感じられました。


<特別展示:瑛九の部屋>
こちらは瑛九の「田園」のみを暗室で展示するという一風変わった趣向となっています。暗室には照明のつまみがあって、それを回すと明るさが変わって絵の印象も変わって見えるという仕掛けになっています。

瑛九 「田園」 ★こちらで観られます
DSC03514.jpg
写真はポスターの一部を拡大したものです。無数の点描で描かれた大型の作品で、黄色や赤が多くて太陽や青空の下の田園風景と言われたらそう見えるかな。先述の通り明るさの調整をしながら観ると、まるで昼間から夕暮れに変わっていくような視覚体験もできました。明らかに印象が変わるし、これは企画が光る展示方法かも。


<セレクション:ユトリロとかパスキンとか>
続いては埼玉県立近代美術館が誇る西洋画・日本人洋画家によるコーナーです。今回はシニャックの新収蔵品が特に目を引きました。

ポール・シニャック 「アニエールの河岸」 ★こちらで観られます
DSC03516_20190317022820c9a.jpg
写真はポスターの一部を拡大したものです。川岸から川を望む光景を描いた作品で、川を眺める人の姿などもあります。朝の光景らしくまだモヤが立ち込めるような柔らかめの色調となっているように感じます。しかしこの絵ではシニャックの割にあまり点描っぽさが出ていないように思えました。(水面あたりはちょっと点々としている) 解説によると、こちらの作品は最後の印象派展である第8回印象派展に出品された品のようです。そう考えると印象派展の終焉に関わった歴史的な作品と言えそうです。

斎藤豊作 「フランス風景II」
こちらはフランスの田舎を描いた作品で、バラ色に染まる道や植物に覆われた壁、その向こうの黄色い壁の家などが描かれています。かなり強めの色彩で、ピンクや緑の対比を使っていたりして鮮やかです。大きな筆跡を残して点描のように描いているのも特徴で、大胆かつ可憐な印象を受けました。

斎藤与里 「暁の金剛山」
こちらは蓮の葉や蓮華の咲く池が描かれ、その奥に雄大な金剛山が描かれています。単純化されて輪郭を素早く描いたように見えるかな。荒々しいけど素朴で郷愁を誘いました。


ということで、常設でも半分は瑛九についてのミニ企画展の様相となっていて満足できました。この美術館は常設に驚くような品もあるので、特別展に行かれる際には常設も観ることをオススメします。(と言いつつ ぐるっとパスだと特別展は提示で観られるけど常設は別料金で見逃しがち気味です…w)



記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



プロフィール

21世紀のxxx者

Author:21世紀のxxx者
 
多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。

関東の方には休日のガイドやデートスポット探し、関東以外の方には東京観光のサイトとしてご覧頂ければと思います。

画像を大きめにしているので、解像度は1280×1024以上が推奨です。

↓ブログランキングです。ぽちっと押して頂けると嬉しいです。





【トラックバック・リンク】
基本的にどちらも大歓迎です。アダルトサイト・商材紹介のみのサイトの方はご遠慮ください。
※TB・コメントは公序良俗を判断した上で断り無く削除することがあります。
※相互リンクに関しては一定以上のお付き合いの上で判断させて頂いております。

【記事・画像について】
当ブログコンテンツからの転載は一切お断り致します。(RSSは問題ありません)

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter

展覧スケジュール
現時点で分かる限り、大きな展示のスケジュールを一覧にしました。

展展会年間スケジュール (1都3県)
検索フォーム
ブログ内検索です。
【○○美術館】 というように館名には【】をつけて検索するとみつかりやすいです。
全記事リスト

全記事の一覧リンク

カテゴリ
リンク
このブログをリンクに追加する

日ごろ参考にしているブログです。こちらにも訪れてみてください。

<美術系サイト>
弐代目・青い日記帳
いづつやの文化記号
あるYoginiの日常
影とシルエットのアート
建築学科生のブログ
彫刻パラダイス
ギャラリークニャ
「 10秒美術館 」 ~元画商がほんのり捧げる3行コメント~ 
だまけん文化センター
横浜を好きになる100の方法
美術品オークション

<読者サイト>
アスカリーナのいちご日記
Gogorit Mogorit Diary
青い海(沖縄ブログ)
なつの天然生活
月の囁き
桜から四季の花まで、江戸東京散歩日記
うさみさんのお出かけメモ (u_u)
森の家ーイラストのある生活
Croquis
ラクダにひかれてダマスカス

<友人のサイト>
男性に着て欲しいメンズファッション集
Androidタブレット比較
キャンペーン情報をまとめるブログ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
メディア掲載
■2012/1/27
NHK BSプレミアム 熱中スタジアム「博物館ナイト」の収録に参加してきました
  → 詳細

■2011/11/21
海の見える杜美術館の公式紹介サイトに掲載されました
  → 詳細

■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
  → 詳細

■2009/10/28
Yahoo!カテゴリーに登録されました
  → 絵画
  → 関東 > 絵画

記事の共有
この記事をツイートする
美術鑑賞のお供
細かい美術品を見るのに非常に重宝しています。
愛機紹介
このブログの写真を撮ってます。上は気合入れてる時のカメラ、下は普段使いのカメラです。
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
22位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
デザイン・アート
4位
アクセスランキングを見る>>
twitter
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

※できるだけコメント欄にお願い致します。(管理人だけに表示機能を活用ください) メールは法人の方で、会社・部署・ドメインなどを確認できる場合のみ返信致します。